第31回視覚障害リハビリテーション研究発表大会 IN 金沢 【抄録集】 2023年9月8日(金)〜2023年9月10日(日) 於:金沢商工会議所会館 高校生たちの取り組み 2022年度から高校では、社会で求められる生きる力の育成のために、「総合的な探求の時間」が始まりました。3つの高校では、『コード化点字ブロック』を探求のテーマとして取り上げましたので、その活動を紹介します。また、当事者として高校時代から活動を続け、現在、起業を目指している学生チームの活動も紹介します。 第一は、金沢市立工業高校の発表です。スマホで読み取ると音声案内が流れる『コード化点字ブロック』。周辺の案内に特化しており、視覚障がい者はもちろん、初めて訪れた観光客の方にも便利な技術です。「もっと多くの人に使ってもらいたい…」、「道案内に応用できればもっと使ってもらえるのでは…」、という思いで研究を進めています。校内に『コード化点字ブロック』を敷設して、様々な実験と研究を行なっています。 第二は、茨城県立下館第一高校の発表です。インクルーシブ社会の形成を目的に、点字ブロックの調査を進めていたら、『コード化点字ブロック』の存在を知りました。いきなり道路での実験は難しかったので、筑西市役所内で実験を行ないました。アンケートから新しい気づきを知り、反省点、新たな課題が浮き彫りになりました。 第三は、石川県立金沢泉丘高校の発表です。みんなが安心して生活できる未来をつくることを目的に、盲学校で、『コード化点字ブロック』の体験会を実施して、インタビューを行ないました。インタビューでは、使いやすいという声は多かったものの、知名度は低く、様々な場所への広がりの期待を感じました。 そして、最後は、学生チームBraillies(ブレイリーず)の発表です。Brailliesは「見える見えないに関わらず誰もが自分の意志で自由に選択し、自らの足で一歩を踏み出せる社会の創造」を理念に掲げている学生チームです。発表内容は、視覚障害の当事者になったことで見えてきた社会的課題を自らの経験を踏まえてお話し、Brailliesの活動内容や今後の展望についてご紹介します。 司会進行 松井くにお(金沢工業大学) 発表  1.コード化点字ブロックにおける普及と道案内の研究 蚊戸泰隆、窪田篤志、出口洸、二木智也、堀田舜介、織田隆矢、菅谷煌稀、宗田槙市、前田朋哉(金沢市立工業高校) 2.With 点字ブロック(動画) 瀬尾小陽、飯島麻加(茨城県立下館第一高校) 3.コード化点字ブロック(動画) 平井杏香他(石川県立金沢泉丘高校) 4.Brailliesが目指す未来 ~知ってほしい、視覚障害者の現実を~ 小汲唯奈(桜美林大学)山中麻里江(弘前大学)   指定報告1 『目の見えない乳幼児の発達と育児』 ○神尾 裕治 視覚障害乳幼児発達研究会 1 視覚に障害のある子どもたちへの乳幼児からの早期介入の重要性 視覚障害児の発達支援は乳児期から行うことが重要であり、加えて家族中心型の支援の視点が欠かせないことが指摘されている。アメリカにおける3歳までの早期介入プログラム(EIP)の実践から、それに続く3歳からの移行支援、及び学校教育での支援に繋げるための大切な示唆を得た。 2 わが国における早期介入の現状と課題 わが国では、従来から盲学校(視覚障害特別支援学校)等において乳幼児教育相談として数多く実践されてきた。最近スマートサイトの活用及び、眼科医との連携が深まってきている。視覚障害乳幼児に対する医療・福祉・教育が連携した切れ目のない早期からの支援の充実が喫緊の課題である。 3 目の見えない乳幼児の発達と育児への支援 目の見えない乳幼児は自らの固有覚や触覚等を使って周囲の物や人に自発的に働きかけ、自分と環境の関係を学ぶ。子どもたちが自発的に学ぶことを大切にし、それを支える様々な工夫を行うことが私たちの役割である。私たちは、東京都心身障害者福祉センターの事例研究の成果、及び当時の貴重な「保育日誌」を研究し、そのことを確認することができた。そして、保護者と共に目の見えない乳幼児の発達状況を把握し、適切な支援を行うことの重要性を実感した。 4 読者の反応から 「・・・赤ちゃんの時代をどう過ごしていいかの情報がなかなかなくて、不安でした。特に半年ぐらいは、支援もほとんど、受けられないし、情報が入らないので、この本を読みたかったです。事例も沢山あるので、なるほどと思えました。系統的に書いていただいているので、重複の小学生の親御さんにも読んでほしいし、支援する先生方にも読んでほしい。盲学校の乳幼児支援に携わる先生や小学部の先生にこの説明いただけたら安心できただろうなと思うことも沢山あります。・・・」  指定報告2 踏切における視覚障害者の安全対策 ~日本歩行訓練士会の取り組み~ ○古橋 友則 日本歩行訓練士会 一昨年の8月静岡県三島市で、そして昨年4月には奈良県大和郡山市で視覚障害者が踏切での接触事故により命を落とした。それにより国は昨年6月に道路の移動等円化に関するガイドラインを改定し、踏切道における視覚障害者の誘導対策の規定を行った。奈良での事故からわずか2ヶ月での国の対応はいままでにない早さであり、その背景には事故後の報道や地元当事者団体の皆様の取り組みが大きかったことが言える。 一方で、その半年以上前に静岡で起こった事故の際は、当初その新聞報道はわずかであり、私も地元の県でありながら、その事実を後に把握してからも検証等の対応までに時間が経ってしまった。私の中では、「静岡の事故の後に迅速な対応や取り組みができていれば、奈良の事故は防げたのかもしれない」という思いが常にあり、このような痛ましい事故を二度と起こさないためにも、日本歩行訓練士会としてやるべきこと、また地元の一訓練士として出来ることを果たしていきたいと考えている。 当会ではこれまで、事故現場での検証と原因の把握、訓練士へのアンケートと意見交換会、それを基にした実証実験を重ね、それらをシンポジウムや国の会議において伝えてきた。またその過程において、当事者団体や有識者、国の関係機関とも踏切に限らず視覚障害者の移動の安全について、いままで以上に意思疎通が図れるような関係が構築されてきた。 今回の指定報告では、静岡、奈良での踏切事故後の当会の取り組みを報告するとともに、国の動きや現在の状況、課題を関係機関の方にも知ってもらい、踏切における安全対策をとおして、視覚障害者の移動の安全について改めて、理解を深めていきたい。   指定報告3 日本の障害者施策ってインクルーシブ?−−国連勧告に見る現状と課題−− ○中野 泰志 慶應義塾大学 日本の障害者施策は、障害者を巡る国際的な動向と呼応して変化してきた。特に、近年のダイバーシティ&インクルージョン(D&I)を希求する風潮には、国連で採択された「障害者の権利に関する条約」(障害者権利条約)と「持続可能な開発目標」(SDGs)が大きな影響を及ぼしている。本報告では、これらの国際的な動向によって、日本の障害者施策がどこまでインクルーシブになったのかを議論する。 2014年に日本が批准した障害者権利条約では、障害者の人権や基本的自由の享有を確保し、障害者の固有の尊厳の尊重を促進するため、障害者の権利の実現のための措置等を規定し、市民的・政治的権利、教育・保健・労働・雇用の権利、社会保障、余暇活動へのアクセスなど、様々な分野における取り組みを求めている。この条約の規程に基づき、日本政府は障害者差別解消法等の施行状況等を「第1回政府報告」として、障害者団体や日弁連等の団体は施策の現状や課題・改善点を「パラレルレポート」としてまとめ、国連の障害者権利委員会に提出した。そして、政府・当事者団体の双方の報告書に基づき、対面審査が行われた後、障害者権利委員会から日本政府へ改善勧告を含めた総括所見が提出された。総括所見では、マラケシュ条約の批准、読書バリアフリー法や障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法の施行、バリアフリー法や障害者差別解消法の改正等は評価されたものの数多くの懸念が指摘され、改善勧告が出された。 本報告では、総括所見の中から視覚障害に関連の深い事項について整理して紹介する。その上で、報告者がかかわってきた内閣府の障害者政策委員会、国土交通省のバリアフリー法、文部科学省・厚生労働省の読書バリアフリー法、文部科学省の障害のある学生の修学支援に関する検討会等での議論を踏まえ、日本のインクルーシブに関連する施策の現状と課題について紹介する。   協会企画 視覚障害リハビリテーション協会主催プログラム 「視覚リハ未来への挑戦Part7」 ○岡島 喜謙 大会連携委員会 協会主催プログラムでは毎年、『研究トラの巻』と『視覚リハ自分ごとプロジェクト』の2つのプログラムを企画してきました。これまで、『研究トラの巻』は、代表的な研究法である「事例研究」、「調査研究」、「実験的研究」をテーマとしてとりあげて、研究手法を学ぶ機会を作ってきました。また『自分ごとプロジェクト』は、参加者によるグループワーク形式での研修を行っています。グループワークは毎年盛況で、アンケートではもっと時間がほしいとの声を多数いただいています。 そこで、今回の金沢大会ではグループワークの時間を大幅に拡充し、『研究トラの巻』と『自分ごとプロジェクト』を連動させた企画を開催します。初めに『研究トラの巻』で「事例研究」についてのレクチャーを受けていただき、その後、『自分ごとプロジェクト』で事例検討のグループワークを行っていただくこととしました。 『研究トラの巻』では、「事例研究のツボ」をテーマに講義形式で行います。未来への挑戦の武器として、日々の仕事を振り返り、かつ様々な現場で役立つ臨床研究手法を学ぶ場にしていただきたいと考えています。 次に『自分ごとプロジェクト』では、少人数のグループに分かれ、各グループ1名ずつ仮想の視覚障害者になっていただき事例検討を行います。この方の見え方や年齢、居住地、家族構成などを考慮した上で、これから先どのような視覚リハが必要か、そのためにどのような機関と連携する必要があるかなどについて、グループ内で検討していただきます。この事例検討で、皆さんのこれまでの経験を活かしつつ、グループの他の職種、地域の方達とのディスカッションを通して、今後の現場における課題を解決するための力を向上させていただきたいと思います。  日時: 2023年9月8日(金) 13:00〜17:00 会場: 金沢商工会議所会館 定員: 100名(事前申込制) 内容 (1)『研究トラの巻』 其の7 現場から発信!事例研究のツボ       講師:田中恵津子氏    (2)『視覚リハ自分ごとプロジェクト』視覚リハの今日的課題 協会企画 スマートサイトに関する北陸3県の動向 ○視覚障害リハビリテーション協会 【内容】 日本眼科医会が推進するスマートサイトが47都道府県すべてに用意されるなど、近年視覚障がいやロービジョン者に関係する機関の連携が全国的に進んできた。そして地域において、それぞれのリソースを活用したり特色をいかしたりして、見えない・見えにくい視覚障害者をサポートする取組が行われている。 今回大会が開催される石川県や、同じ北陸地域の富山県、福井県においてもスマートサイトを中心として、それぞれの地域で運営方法を工夫しながら取組を続けている。しかし、都市部と異なり、視覚障害に関して相談可能な施設や視覚リハビリテーション訓練施設の不足など、地方特有の課題もある。 そこで、このセッションでは北陸3県のスマートサイトの現状や課題を、スマートサイト担当者から報告いただく。またこれに続く「地域ブロック会」において、それぞれの地域におけるスマートサイトの参考として、話し合いのたたき台となれば幸いである。 【発表者】 富山県・富山県スマートサイト 土田真紀氏(土田眼科医院副院長、富山県スマートサイト推進委員会委員) 石川県・ビジョンケアネット石川 米島芳文氏(石川県視覚障害者協会 理事長) 福井県・羽二重ねっと 岡島喜謙氏(福井県立盲学校、羽二重ねっと事務局長)   協会企画 地域ブロック会 ○視覚障害リハビリテーション協会 【日時】 2023年9月9日(土)16:30〜17:00 【内容】 視覚障害リハビリテーション研究発表大会は、コロナ禍の影響により1年延期しオンラインで開催された岡山大会や、三密を避けた名古屋大会など、制限の多い大会が続きました。しかしCOVID-19が5類感染症に引き下げられたことにより、今年は久しぶりに制限のない大会となっています。 この地域ブロック会では、久しぶりに全国から集まった参加者の皆さんが自由に交流する場として、地域ブロックごとに集まることができる時間を設けました。それぞれの地域における視覚リハの現状を報告しあったり、異業種間での交流を行うために名刺交換を行ったり、どのように時間をお使いいただいても結構です。ただし、参加するブロックはお住まいの地域以外でも結構です。ご自身が今後関わっていきたいブロックや、あのブロックではどのような方が活動しているのかなど、情報収集を目的とした参加も歓迎します。 ぜひ、全国の視覚リハがさらに発展するよう、多くの交流が生まれることを願っています。 なお地域ブロックは以下の通りです。 ・北海道・東北ブロック ・関東・甲信越ブロック ・東海ブロック ・北陸ブロック ・近畿ブロック ・中国・四国ブロック ・九州ブロック   協会企画 分科会企画 ○視覚障害リハビリテーション協会 9月8日(金)17:00〜18:00 【分科会】 余暇活動分科会 【企画名】 視覚リハビリテーションとレクリエーション 〜実践から考えよう〜 【内容】 ■■ 第1部 視覚リハビリテーションとレクリエーションをテーマに取り組み発表 ・できそうなことより、やってみたいにチャレンジする   成澤俊輔(一般社団法人 Your choice) ・私のウクレレライフ   石原純子(井上眼科病院) ・京都ライトハウスにおけるレクリハ実践 副音声について楽しく知る   石川佳子(京都ライトハウス鳥居寮) ■■ 第2部 レク体験  ・表現を楽しむ 言葉と遊ぼう レクリエーション川柳  ・点字付きかるた  ・アナログゲーム  ・アルゴリズム体操とキツネダンス ・はじめてのウクレレ体験 ■■ 第3部 レクお土産づくりサロン   レク体験のグループごとに気付き、課題を出し合い、今後、レクの要素をそれぞれの取り組みの中でどんなふうに活かしていけるか具体的に考える。レクグループごとにまとめ全体で共有する。   9月9日(土)17:00〜18:00 (1)大ホール 【分科会】 Orientation and Mobility(O&M)分科会・情報アクセス分科会 【企画名】 踏切と横断歩道を安全に渡るための懇話会 【内容】 最近のO&Mや視覚障碍者向け歩行支援技術に関する話題について、サロン的雰囲気で、ざっくばらんに、情報の共有や交換を行う。今回は、大和郡山市での死亡事故以来、注目が集まっている「踏切内の触覚誘導帯」を話のきっかけとしたい。また、歩行支援技術によって視覚障碍者の安全がどうしたら確保できるかをディスカッションしたい。下記の話題提供を受け、さまざまに話が広がることを期待している。 話題提供  ・「各地の踏切内触覚誘導帯」  土谷高正・近田光昭(大崎工業) ・「横断歩道でのスマートフォンアプリの活用」  押野まゆ(公益財団法人 日本盲導犬協会) (2)研修室2 【分科会】 高齢視覚障害者リハビリテーション事例研究分科会 【企画名】:お見合い名刺交換会 【内容】 当分科会は、高齢視覚障害者を取り巻く問題や支援者が直面する課題等について、率直に話し合える場作りを目的として設置された。コロナ禍で縮小していた勉強会やメーリングリストを通した活発な意見交換・情報共有の復活を目指している。気軽に相談し合える関係を作るために、参加者全員が顔見知りになれるようお見合いパーティ形式で情報の共有や交換を行う。   パネルディスカッション 視覚障害者が当たり前に働くための職場の情報アクセシビリティと支援を考える -インクルーシブな就労環境を実現するための課題と今私たちができること- ○伊藤 裕美 認定NPO法人タートル 【開催日時】 2023年9月10日 11:00〜12:00 【概要】 デジタル化の進展により、視覚障害者の就労機会は大きく広がってきている。 スクリーンリーダーや拡大鏡などの視覚支援機能を活用したパソコン操作を習得することで、事務職として一般企業で働く視覚障害者も増えてきている。一方で、業務の多くが職場のITシステムで行われるようになり、また、リモートワークが一般化するなど視覚障害者を取り巻く環境も大きく変化してきている。こうした環境の変化で生じるさまざまな課題は、視覚障害当事者の努力だけでは解決できないものも多く、職場のIT環境に即した支援と職場の理解が欠かせない。 このセッションでは、こうした課題の解決に取り組む支援団体や支援者のこれまでの取り組みを報告することで、就労支援のさまざまな方法を披露するとともに、登壇者によるパネルディスカッションを通して、インクルーシブな就労環境を実現するための今後の支援のあり方について議論を深める。 【プログラム】 パネリストによる活動報告 11:00〜11:20 パネルディスカッション 11:20〜11:50 質疑応答とまとめ 11:50〜12:00 【パネリスト】  伊藤裕美 認定NPO法人タートル理事、タートルICTサポートプロジェクト リーダー 押野まゆ 公益財団法人日本盲導犬協会 神奈川訓練センター 広報・コミュニケーション部 北神あきら NPO法人視覚障害者パソコンアシストネットワーク(SPAN) 理事長 星野史充 社会福祉法人名古屋ライトハウス 情報文化センター、認定NPO法人タートル理事 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 雇用管理サポーター、同機構 愛知障害者職業能力開発校 委託職業訓練講師 ランチョンセミナー 「当事者団体活動の目指すもの」~地域社会との繋がりを大切にしたインクルーシブ?な取り組み~ ○片平 考美 日本視覚者団体連合青年協議会 1 はじめに 視覚障害をもつ当事者団体といっても様々なものがある。運動団体、患者会、職業、見え方、スポーツ、趣味や交流団体も含めると数えきれない程である。それらに所属するすべての視覚障害者の声を1つに集めることは容易ではない。 76年の歴史ある本連合も現在は、会員の高齢化、会員数の減少、組織を運営していくための担い手不足という大きな課題を抱えたまま活動を続けている。会員数が増えるということは、それだけ多くの視覚障害者の意見を広く社会に伝えることに繋がる。1人でも多くの視覚障害者の意見を集約し、地方公共団体や国に一人一人の小さな声を届けることを続けていきたい。会員数がこのまま減少していけば、多様性に欠けた当事者の偏った意見が地方公共団体や国に反映されていくことも懸念される。 そこで、私は次の2つのことを大切に活動してきた。1つ目は、地域団体が魅力ある活動をし、幅広い世代が興味関心をもって非会員でも参画しやすい環境づくりをすること。2つ目は、地域と繋がりをもてる活動の展開すること。今回は、この2つのことをインクルーシブな活動ととらえ、私たちが10年間の静岡の団体や本連合青年協議会で取り組んできた活動の一部を紹介したい。 2 地域社会と繋がるインクルーシブな活動紹介 ・地域施設、人材活用(同行援護事業所、バスツアー、グルメ、趣味) ・学生ボランティアとの繋がり(スポーツ行事、買い物イベント) ・盲学校の保護者、児童生徒との繋がり ・スマートサイトの役割を担う(関連団体との連携、就労相談・研修) ・SNSの活用(LINEのオープンチャット、Clubhouse、Twitter) 3 今後の展望 次の世代を育てられない組織に未来はない。諸先輩方が今まで築き上げてこられたものを本当の温故知新とし、新たな時代に合った課題に対応するために、組織改革は絶対に必要である。今後も、本連合や地域団体へのご支援・ご協力をお願いしたい。  ランチョンセミナー JRPSユースの活動 ○長田 麻希 JRPSユース 【背景・目的】 視覚障害者は全国約7割が65歳以上、10~30代の当事者は同世代同病者が身近におらず孤独を感じる者が多い。JRPSユース部会はそれらを軽減するため2004年に創設し今年で20年目となる。全国16~35歳の網膜疾患のある若年層を対象とし、学生から社会人まで様々なライフスタイルの方がいる。見えにくさや困り事、悩みや辛さも様々である。今回部会活動を振り返り、インクルーシブについて考えた結果をお伝えする。 【結果】 創設当初から活動主体は『メンバーひとりひとり』であり各イベントの準備や運営はメンバーで構成される実行委員会が行っている。多くの場合、お互いの関係性を築くところから初回ミーティングが始まる。それぞれ仕事や家庭等ある中お互いの得意苦手や価値観を少しずつ知り、尊重し合いながら準備を進めていく。全国にメンバーがいるためより密でフレキシブルなやり取りができるようSkypeをサービス開始時から取り入れ環境を整えていた。2010年頃からはzoomやクラウドファイル共有の導入を進め、スムーズにやり取りできるよう取り組む姿勢は今でも続いている。また、この数年は定期的にオンライン交流会を実施している。参加者からはイベントに参加し「元気をもらえた」、「周囲に言えないことを共感できて嬉しかった」、「病気で辛くても頑張ろうという気持ちになった」と声があった。 【考察】 結果から、部会の強みは3つあると考えられる、①協同作業の中で相手を受け容れ合うことで充足感を感じられる、②イベントの準備や運営をメンバー主体とすることで個々人の学び・成長となる、③同世代と繋がれる機会とあたたかい空気を作ることで悩みや工夫を分かち合える。 【まとめ】 様々な境遇が違うメンバーが集うだけではなく、属性やニーズに捉われずメンバーが主体的に考え、共に行動することができる環境がある。病気という繋がり以上の関係性を構築でき、多様性を肌で感じられる場であると再認識できた。今後、部会メンバーだけではなく、家族や友人等も含めたイベント等を開催し、よりよい部会作りをしたいとも考えている。   ランチョンセミナー 【ミドル世代における、インクルージョン】 ○菅谷 久美子 日本網膜色素変性症協会ミドル部会 社会から、なんだか孤立しているような・・・ 上司、後輩の間でうまく働けているかな・・・ 仕事と子育て、家庭を両立できているかな・・・ 子供のPTAなどで、地域に貢献できているかな・・・ 私、自分のやりたいこと、やれているかな・・・ など、10代や20代と異なる悩みが増えてくる、 30代後半から40代のこの時期の年代に特化した部会を日本網膜色素変性症協会(以下、JRPS)で昨年4月に設立した。 JRPSミドル部会は、JRPS会員で、36歳から50歳の年代の会員の方を対象に、全国各地から入会が可能となっている。また、ミドル部会では、当事者の方だけではなく、対象年齢の網膜疾患を抱えるご家族さまがJRPSの会員であれば、ミドル部会への入会も可能としている。 この年代特有の悩み、課題として、仕事では、上司と後輩の間に入り、中間的な役割を担う業務に携わっている方や、専門職として働いている方は、技術が成熟し、独立などを視野に入れている方も多い。 家庭を持っている方は、親でもあり、夫婦でもあり、家事と育児、また仕事などもされていれば2足や3足のわらじを履いている方もいる。 重ねて、この年代になってくると、親が高齢となり、介護が必要だったりする方も増えてくる。 現状、同行援護サービスは、基本的に当事者の安全確保が優先であり、ベビーカーを押しながら歩行する際や、抱っこ紐などで子供を連れて移動する際の責任は親がとるということとなる。 なかなか、子供を連れての外出もしにくい状況でもある。 10代、20代と大きく異なる点としては、自分だけのことだけでは済ませれないということ。自分を取り巻く周囲のことも考えつつ、視覚障害を抱えながら、家族や仕事、自分自身のこともしなくてはならない。 このような世代に対し、ミドル部会では、ミドル世代特有の課題にアプローチできる活動を行っている。   インクルーシブ?座談会 地域からの訴え「あうわ」誕生と今思うこと~当事者の立場からインクルーシブを語る~ ○林 由美子 「あうわ」視覚障害者の働くを考える会 「あうわ」視覚障害者の働くを考える会(以下、「あうわ」)の林代表は、IT企業での勤務時に視覚障害者となり、盲学校で学ぶことになった。盲学校在学中に、手放す選択しかなかったはずのIT業界が、視覚障害者の職域であると知った。このとき感じた社会の仕組みに対する違和感が、「あうわ」の設立に不可欠であったと振り返る。また、骨折で入院した際の体験から、「視覚障害者の為のリハビリテーションはあるのか?」という疑問が沸いた。その疑問が、今の「視覚障害者の就労を考える座談会」へと繋がっていった。そして学ぶほどに、視覚障害者の生活が様々な社会の仕組みの狭間に落ち込んでいる現象に気がついていく。しかし、個人の力ではその課題には到底たちうちできないことも痛感していく。そこで、社会の仕組みを変えるためのきっかけとして、関連機関が一堂に会する場を設定し、問題課題を知り、考え、繋がってもらうための準備をしてきたのがこの数年であった。また、自分たちができることは積極的に視覚障害のことを広く知ってもらうことだと考え、市の事業へは参加協力し、市民へのアプローチとしては、ラジオパーソナリティとして発信などに取り組んだ。このような地盤を整えることに取り組みつつ、視覚障害者に関わる専門家の養成、そして適正な機関への配置を訴え続けていく。視覚障害者数は身体障害者の中でも極めて少数である。だからこそ、公の力を発揮してほしいと願う。活動を継続してきて、今、思うこと。それは、この課題の解決には、社会の仕組みを変化させるしか道はない。その変化こそが、視覚障害者も含む、誰もが活躍できる社会へと繋がると考える。このままでは終われない。これは、今後の社会の可能性を探り続ける活動だとも思っている。本大会では、会場にご参加の皆さんと共に、この可能性について考えを深め合いたいと考えている。   協会災害担当 災害対策委員会からの訴え ○加藤 俊和 (社福)日本盲人福祉委員会(日盲委)評議員、災害担当 大災害が相次ぎ、地震や津波だけでなく、特に豪雨災害が全国的に頻発しており、視覚障害者の間でも、災害時にどう行動するのか、またハザードマップ情報の把握、非常持ち出し品ななどを始めとして、災害への関心が高まっている。その中で、災害対策が進んできている部分もあるものの関係者の個人的な努力が中心であり、日本盲人福祉委員会をはじめとして組織的な活動も限られた活動にとどまっている。 リハビリテーション関係者の支援で重要なのは、被災直後の救助ではなく、被災後の、障害によって生じる身体的・精神的な様々な困難を最小限にするための支援である。特に、視覚障害者にとっては、災害によって住み慣れた生活空間から突然引き離されて環境が激変することへの対応が非常に困難になることが大きい。そのため、発災後、支援体制を組織的に構築して被災した視覚障害者を把握するとともに、必要な視覚障害リハビリテーション専門家を派遣しての支援を速やかに行い必要期間継続する必要があり、それを支える体制を構築できるかが大きな課題となっている。 さらに、被災された視覚障害者を把握することは容易ではない。障害者手帳の範囲としても、当事者団体が把握できているのは1割に満たず、広く利用されている点字図書館利用者ですら2割程度にすぎない。そのため、障害者手帳データが入手できた熊本地震、結果的に利用できた東日本大震災の支援においても、残りの1・2級の視覚障害者の半数以上が日常生活用具の利用すらできていなかったことが明らかになっている。 このような中で、災害時に視覚障害者はどのように行動すればよいのか、そして、支援はどのように行う必要があるのかについて考察する。 口頭発表 O1-1 盲学校に在籍する歩行訓練士を取り巻く状況の考察~歩行訓練士養成を中心に~ ○青木隆一 筑波大学附属視覚特別支援学校 【目的】 視覚障害者にとっての困難の一つである「移動」に着目した指導が歩行指導である。視覚障害特別支援学校(本発表では「盲学校」とする)における歩行指導は、専門的な知識や技能を有する歩行訓練士が参画することが望ましいが、全ての盲学校に歩行訓練士が在籍しているわけではない。在籍がない学校では、歩行訓練士の養成派遣を県教委等に要望しているが、実現には至らないこともある。そこで、県教委等への歩行訓練士養成要望等における資料とすべく、歩行訓練士を取り巻く状況を調査することとした。 【方法】 全国盲学校長会(加盟校67校)を通じて、2022.12月末日時点での歩行訓練士に係る実態等について、全19問のアンケート調査を実施した。(2023.2月中旬依頼)。 【結果】 全67校中回答は54校(回答率80%)。主な結果としては、歩行訓練士である教員が在籍していない・・23校(34.4%)、地域の福祉機関等の歩行訓練士に業務委託している・・13校(24%)、歩行訓練士養成機関への派遣システムがない・・30校(58%)、定期人事異動において歩行訓練士の異動に特例なし・・40校(90%)、在籍がない23校中歩行訓練士養成派遣を希望している・・15校(65%)等であった。 【考察】 歩行訓練士を取り巻く状況は学校によって差が大きく、学校によっては専門性に基づく歩行指導の展開が厳しい状況であることが分かった。また学校の自助努力だけではなく設置者である教育委員会等の理解と施策化が重要であると考えられる。 【結論】 他県の動向等を参考としながら導入に向けて検討したいという自由記述の一方で、養成派遣が難しいならば地域の関係機関との連携・協力を模索したい旨の記述もあった。本調査結果を、各校長が教育委員会等との協議する際の資料として活用できるよう整理し、全ての盲学校に歩行訓練士が安定的に配置されている状況を実現できるようにしたい。   O1-2 慶應義塾大学病院眼科でのロービジョンケアネットワークの構築の検討 ○山本 詩織1)、堅田 侑作2)、栗原 俊英2)、根岸 一乃3) 1)慶應義塾大学 医学部 2)慶應大・光生物学、眼科 3)慶應大、眼科 【目的】 慶應義塾大学病院にロービジョン(LV)外来が2022年9月に開設された。その現状と視覚障害者福祉施設とのネットワークを調査する。 【対象と方法】 2022年9月にLV外来を開設後、2023年6月26日までに受診した患者を対象に、原因疾患、屈折(等価球面度数)、視覚障害者手帳取得率、視覚障害者福祉施設利用率について診療録を後ろ向きに調査した。 【結果】 調査期間中にLV外来を受診した患者は80例であった(男性44例、女性36 例、平均年齢67歳±16.7)。原因疾患は遺伝性網膜疾患 43%、加齢黄斑変性 14%、緑内障 9%、視神経疾患 8%、近視性疾患 6%、糖尿病網膜症 6%、角膜疾患 4%、その他 10% であった。屈折は平均 -0.69± 2.4ジオプターであった。 初回 LV 外来受診時の視覚障害者手帳取得率は 60%、視覚障害者福祉施設利用率は0% であった。LV 外来受診患者の34% に福祉施設の情報提供を行ったところ、提供を受けた85%の患者が利用した。 【結論】 手帳取得率は60%と比較的高かったが、初診時の福祉施設の利用率は0%であり、今後福祉施設とのネットワークが重要である。東京都に視覚障害者福祉施設は複数あるが認知度が低い可能性がある。疾患、視機能に合わせたロービジョンケアと共に、LV 外来からの福祉施設利用紹介によるネットワークが重要であることが示唆された。   O1-3 ゴールボール初心者のためのスローイング技能の向上を目指す教材の作成 ○濱中 良 京都先端科学大学 【目的】 ゴールボールの初心者にとって視覚を制限した状態で狙った位置に投げることが非常に難しい。また、自分の投げたボールがどこに到達したかを判断することも難しく、スローイング技能の向上が実感しにくい。そこで、ゴールボール初心者のためのスローイング技能の向上を目指す教材を作成し試験的に実践して内容について検討することとした。 【方法】 まず作成した教材を筆頭著者が実践して改善を繰り返した。その後、ゴールボール未経験の3名の大学生(晴眼者)を対象に5日間の実践を行った。そして、作成した教材の有用性や実用性について検討し、最終的な教材を提案した。 【結果】 3名の内2名はコツを掴みパフォーマンスにも良い変化が現れた。一方、1名は個人内の経験だけでは、コツを掴むことはできなかった。しかし、コツを掴んだ2名の情報を共有することでパフォーマンスに良い変化が現れた。作成した教材の実践を通じて、スローイング技能の向上を目指せることが確認できた。また、スローイングのパフォーマンスを量的に可視化することができた。 【考察】 教材の難易度については、2名は5日間かつ限られた練習回数でスローイング技能の向上が確認できたことから、ゴールボールを初めて経験する人にとっては概ね適切であったといえる。しかし、1名は個人内の経験だけでは良いパフォーマンスの変化が見られず、誰にとっても有効であるとは言えない。そのため、教材を活用する際には、グループ内でコツを共有する等、個人内のみでコツへの気づきを完結させないことが大切だと言える。また、最終的に提案する教材はゴールボールの段階的な練習方法として活用できる他、ターゲット型のスポーツ教材としても活用できると考えられる。 【結論】 本研究の結果、作成した教材は、ゴールボール初心者のためのスローイング技能の向上を目指す教材として十分に活用できるといえるだろう。   O1-4 コロナ下における視覚障害あはき師の実態に関するヒアリング調査報告 ○伊藤 丈人1)、藤井 亮輔2)、指田 忠司3)、佐々木 孝浩4) 1)独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 2)筑波技術大学(名誉教授) 3)社会福祉法人日本盲人福祉委員会(常務理事) 4)茨城県立盲学校(理療科教諭) 【目的】 社会福祉法人日本盲人福祉委員会では、「新型コロナウイルス感染症拡大下のマッサージ等における視覚障害者の就労及び生活の実態等に関する調査」を実施した。本調査は、新型コロナウイルスの感染拡大が視覚障害あはき師の就労に及ぼしている影響等を把握することを目的とし、アンケート調査とヒアリング調査からなっている。今回は、ヒアリング調査の結果について報告する。 【方法】 ヒアリング対象者は、各協力団体(日本視覚障害ヘルスキーパー協会、全国病院理学療法協会、日本視覚障害者団体連合)から紹介を受けた10人であった。ヒアリングは、オンラインまたは電話を利用し、2022年8月から11月にかけて実施した。 【結果】 ヒアリング対象者の内訳は、施術所経営5人、病院勤務2人、ヘルスキーパー2人、機能訓練指導員1人であった。コロナの業務に与えた影響は、職種によって異なっていた。病院勤務の2人は、施術する場所の変更等があるものの、勤務時間、支給される給与に変更はなかった。この状況は、機能訓練指導員の1人も同様であった。他方、ヘルスキーパーの2人は、マッサージ室の閉鎖によって自宅待機を経験し、うち1人は転職を余儀なくされた。また、施術所経営の場合、来院者が急激に減少し、その後回復したもののコロナ以前の水準には戻っていないとした者が多かった(4人)。 【考察】 ヒアリングを通して、施術所の来院者の減少は、コロナによる影響と、来院者の高齢化等の他の要因が重なり合った結果であることが分かった。また、ヘルスキーパーに関しては、コロナを契機としたマッサージ室の閉鎖や縮小の固定化が確認された。 【結論】 ヘルスキーパーや施術所経営については、コロナ禍を端緒とする影響が残り続けることが考えられるため、実態把握と支援の継続が必要となるだろう。   O2-1 転落リスクを警告する歩行補助アプリの利用時における視覚障害者の歩行状態の検証 ○片山 大悟1)、石井 和男1)、安川 真輔1)、西田 祐也1)、仲泊 聡2)、和田 浩一2)、 原田 敦史2)、別府 あかね2)、山田 千佳子2) 1)九州工業大学 2)公益社団法人NEXT VISION 【目的】 視覚障害者の転落事故を低減を目的に、転落リスクを警告する歩行補助アプリを開発した。本アプリは、スマートフォン搭載のLiDARセンサから得られる3次元距離情報による下方空間の検出と、スマートフォン・スマートウォッチの振動による警告を行う。本アプリによる歩行補助の評価のため、駅ホーム上での検証を実施した。 【方法】 2023年3月にJR和田岬線兵庫駅ホーム上にて被験者を伴う検証を実施した。被験者は日常的に白杖を用いた単独歩行を行う視覚障害者2名であった。コースは駅ホーム縁端付近の奥行き10.4m、幅3.5mの区画とし、被験者の課題は教示されたシナリオに沿って目標地点まで歩行するものであった。条件は教示するシナリオ2条件(駅ホーム進入後から乗車前まで、降車後から駅ホーム退出まで)と、補助具の利用状態3条件(白杖のみ、白杖+スマートフォン、白杖+スマートフォン+スマートウォッチ)の組合せであった。歩行状態の記録はコース外に設置したカメラで行った。検証後には心理状態の評価を目的とした質問紙調査を実施した。 【結果】 被験者の歩行状態について、歩行補助アプリを利用した場合とそうでない場合に明確な差異は認められなかった。心理状態については質問紙調査より、スマートウォッチの警告は移動の判断への影響が少ないことが示された。 【考察】 アプリによる最初の警告が知覚されるタイミングは白杖が警告ブロックに到達するタイミングとほぼ同時であったため、アプリを利用した場合でも白杖のみの歩行状態と変わらないものとなったと考えられる。また、警告ブロックへの到達まで誤警告がほとんど発生しなかったことと、スマートウォッチが肌に直接振動を提示できるものであったことがスマートウォッチの警告が移動の判断への影響が少ない要因と考えられる。 【結論】 利用形態や警告のタイミングについての改善が本アプリの実用化に必要であることが示された。   O2-2 視覚障害者の道路横断時の方向定位を支援するツールの活用方法と支援効果に関する研究 ○稲垣 具志1)、藤澤 正一郎2)、髙橋 和哉3)、寺倉 嘉宏4) 1)東京都市大学 2)徳島文理大学 3)特定非営利活動法人グローイングピープルズウィル 4)株式会社キクテック 【目的】 視覚障害者の道路横断支援のために様々な施設整備が進められているが、想定通りに活用できない場合や導入が進まない課題が散見される。特に横断方向の定位に利用されることの多い歩車道境界の段差は、縁石の配列が横断すべき方向と直交していないと、交差点中心部への偏軌といった危険な事象が度々発生する。このような背景のもと筆者らは視覚障害者の道路横断時の方向定位を支援する「方向定位ブロック」を開発している。これまで実験空間での歩行実験に基づき最適な仕様が抽出され、徳島県内の実道路での有効性確認を経て、東京都内の駅前広場において恒常的に方向定位ブロックが整備された。本稿は方向定位ブロックの実証的評価の一環として、敷設前後における当事者の方向定位行動を観察し有用性を考察することを目的とする。 【方法】 方向定位ブロックは台形が断面の2本の線状突起を有し、横断歩道口の点状ブロックの手前に突起の向きが横断すべき方向と垂直となるように設置される。突起の上に足を乗せ身体の向きを揃えることで、より確実な方向定位を可能とするものである。国分寺駅北口駅前広場において敷設前後に視覚障害者による歩行実験を実施した。6箇所の横断歩道口を対象とし、撮影映像から方向定位の方法や所要時間を把握した。 【結果】 方向定位ブロックの活用により所要時間が短縮され、その効果は点状ブロックの階段状配列といった方向定位が困難な場所でより大きく認められた。敷設前は縁石を用いた方向定位が全体の約4割を占め、所要時間の短縮効果が他の方法と比べ最も大きかった。方向定位ブロック利用時の足の動きは「乗るだけ」の所要時間が他の方法より有意に短かった。 【考察】 道路整備条件が良好でなく従来の支援方法では横断の難度が高い環境においても方向定位の支援性能が発揮され、足裏の触覚活用に慣れると効率よく方向定位ができるため有用性がさらに増す可能性が示唆された。   O2-3 広島大学病院眼科における中間型アウトリーチの成果と利用者の傾向 ○藤田 利恵1)、田中 武志2)、木内 良明3)、奈良井 章人4)5) 1)広島ICF研究会 2)広島大学病院 医療情報部 3)広島大学大学院医系科学研究科 視覚病態学 4)奈良井眼科 5)広島大学病院眼科 【目的】 眼科治療中に視覚の回復が期待できない患者を医療から福祉へ繋ぐことが大切であるが、眼科では整形外科のように治療後に行うリハビリへの基本的な道筋が整っていない。そのため、医療機関と福祉施設間の連携を円滑に行うため、広島大学病院眼科では2021年7月から2023年3月末まで、院内に広島市視覚障害者情報センター(以下、センター)の相談員による福祉相談室を試験的に開設した。本発表では、本事業の実績と利用者の傾向について報告する。 【方法】 福祉相談室の相談記録および院内の記録から利用件数、身体障害者手帳(以下手帳)取得の件数(上記期間内)、院内相談を機に福祉につながった割合、相談内容の割合を集計した。 【結果】 総利用件数は65件。うち20件が相談室を経由して手帳の取得に結びついた。そして院内相談を機に新規に福祉へつながったのは75%で、主な紹介先はセンターや他県の施設であった。相談内容で最も多かったのが家庭生活に関することであり、次にコミュニケーション関する問題であった。 【考察】 相談記録から読み取れる手帳取得者20件の等級内訳は、2~3級が6件、4~6級が8件、等級不明が6件であり、相談者の1割程度が重度であったにも関わらず手帳未取得であった。それ以外に手帳取得相当でありながら障害者に対する社会的な差別を懸念され、手帳の取得を拒否された事例も存在した。手帳取得相当の患者が不所持である理由に手帳による誤った認識を持っていたケースも複数あった。このように福祉専門職が当事者の通い慣れた施設に訪れ相談対応をする中間型アウトリーチの方法をとることで従来の方法では困難だった当事者に対する丁寧で正しい情報提供が可能になると考えられる。 【結論】 院内福祉相談室は通いなれた場所であるだけでなく医師と福祉の連携も明確であり、視覚障害者を福祉につなげ社会参加を促すきっかけとして本相談室のような中間型アウトリーチが有効であることが示唆された。 O2-4 機能訓練事業所の紹介経路の分析と考察 ○中津 大介 東京視覚障害者生活支援センター 【目的】 従来より、視覚リハや必要な情報を医療機関から福祉・教育等の事業所に適切につなぐことが課題とされてきたが、スマートサイトの活用により徐々に連携が深まっている。今回、より効果的な連携のあり方や情報提供のあり方を模索することを目的に、筆者が勤務する機能訓練事業所の紹介経路を分析した。 【方法】 2016年4月1日~2023年3月31日までの機能訓練の利用相談対応数を集計し、考察を加えた。 【結果】 総相談件数は合計で436件であった。身体障害者手帳の状況は1,2級が最も多く、次いで5級の二峰性の分布で、未取得も40件あった。 紹介経路で最も多いのは医療機関で、次いで訓練修了者の再訓練の相談が多く、視覚リハ・支援施設からの紹介と続いた。医療機関は、スマートサイトの推進的立場の医師やLV外来の担当医が多かった。また、対応の経緯を情報提供書として送っている関係者からの再紹介が多かった。何らかの形で自力でたどり着いて相談につながっている例は48件であった。 【考察】 修了者の再訓練ニーズの多さは、その時々の人生の節目、視機能の変化で支援ニーズが再び出てくることがあり、一度訓練を行ったからそれでよいというものではないことを示している。 医療機関からの紹介は、当センターの事業を既知の医師が多かった。現場の医師に、スマートサイトの周知や、視覚リハがどのような肯定的な効果を及ぼすかをさらに周知していく必要がある。また、始めて紹介を受けた医師に、対応の経過を送ることで対応の経過がわかり、積極的な情報提供が再紹介の動機づけに寄与していると思われた。平塚(2022)は、スマートサイト導入による全国的な相談・支援の増加が確認されたことを報告し、ロービジョン関連施設は、対応後の紹介元への報告が必ずしもされていないことを課題に挙げている。当事者が自力でたどりつくことは1割弱であり、ほとんどが紹介で相談に繋がっているため、積極的な情報提供が望まれる。   O2-5 医療介護職による高齢視覚障害者への介護保険サービス提供に関する現状と課題 ○齋藤 崇志、矢田部 あつ子、松井 孝子、清水 朋美 国立障害者リハビリテーションセンター 【目的】 要介護状態にある高齢視覚障害者は多様な生活ニーズを抱えている。そのため、ロービジョンケアの専門職(LVC専門職)と医療や介護の専門職(医療介護職)は、緊密な連携を行う必要がある。高齢視覚障害者への介護サービス提供の現状と課題に関する情報があれば、両者の連携を必要としている介護場面を特定することができる。そして、それらの介護場面への協働が、連携発展の契機となる可能性がある。本研究の目的は、医療介護職による高齢視覚障害者への介護サービス提供の現状と課題を明らかにすることである。 【方法】 介護保険関連事業所に勤務する医療介護職(理学療法士,作業療法士,看護師,介護福祉士,介護支援専門員)を対象としたオンラインアンケート調査を実施した(調査期間:2022.11.24から2022.11.29)。調査項目はサービス提供の現状(高齢視覚障害者に対する介護サービス提供経験)と課題(サービス提供時の苦労・戸惑いの有無とその内容など)に関する内容であった。回答結果の記述統計を算出した。 【結果】 1011名から有効回答を得た。サービス提供経験がある者は878名(86.84%)であり、その内827名(94.19%)が、サービス提供時に苦労・戸惑いを経験していた。苦労・戸惑いを感じた具体的な支援内容で、回答者が多い上位4項目は、日常生活活動動作(n=772), 移動動作(n=391), コミュニケーション (n=294), 転倒/転落の予防方法(n=283)であった。 【考察】 視覚障害が介護現場で頻繁に遭遇する障害である反面、多くの医療介護職が対応に苦慮している現状が推察された。日常生活活動動作と移動動作への支援が医療介護職とLVC専門職の間の連携を発展させる糸口となる可能性がある。 【結論】 多くの医療介護職は視覚障害者に介護サービス提供を行った経験を有しているが、日常生活活動動作や移動動作の支援に課題がある。   P-A1 LED光による視野狭窄者の暗所歩行支援に関する検討 ○豊田 航1)、尾形 真樹2) 1)近畿大学生物理工学部 2)杏林大学医学部付属病院アイセンター 【目的】 視野狭窄は夜間歩行の安全を脅かす要因の一つである。本研究ではLED光による視野狭窄のある人々の歩行支援の可能性を基礎的に検討することを目的とした。 【方法】 晴眼者3人が実験に参加した。参加者の視野は、シミュレーションゴーグルによって左眼が遮蔽され、右眼の視野が中心直径6度に制限された。本実験は対応のある要因による参加者内計画であった。実験要因は、第一にLED光の長さである発光空間間隔(2条件:0.3、0.6 m)、 第二にLED光がない区間の長さである無光空間間隔(2条件:1、3 m)、第三に発光時間の間隔(2条件:常時点灯、1秒周期)であった。 歩行コースは直進約10 mであり、乳白色カバー付ABS樹脂製モールに収納した白色LEDが設置された。参加者は実験者により歩行コースのスタート地点であるLED光の近傍に誘導された。実験者の合図で、参加者はLED光を視認しながら歩行コースの終端に向かって直進歩行した。歩き始めから停止までの平均歩行速度が計測された。歩行後に、参加者は主観的な歩きやすさを7段階等間隔尺度で回答した。 【結果および考察】 発光空間間隔0.6m、無光空間間隔1m、常時点灯を組み合わせ条件において、参加者はより速く歩行し、主観的にもより歩きやすいと回答する傾向であった。この条件は,視野狭窄のある人々にとって歩行中に発見しやすく暗所歩行時の手がかりとしてより有効だったと考えられる。一方、省エネルギーが世界共通の課題として重要視されている現状ではLED光のエネルギー消費を可能な限り減らすべきであり、上述の条件のLED光を全国に設置することは必ずしも適切ではない。 【結論】 発光空間間隔が長く、無光空間間隔が短く、常時点灯のLED光は、視野狭窄のある人々の暗所歩行にとって主観的にも客観的にも有効であることが定量的に示唆された。今後、視野狭窄のある人々にとっての有効性と省エネルギーを両立するLED光の発光条件を特定する必要がある。   P-A2 視覚障害者の地域支援の充実を目指して~スマートフォンサポーター講習会の実施~ ○荒木 俊晴 国立障害者リハビリテーションセンター 【目的】 国立障害者リハビリテーションセンターでは、視覚障害者に対して入所・通所・訪問による自立訓練(機能訓練)を行っている。平成26年度以降の訪問訓練のデータを集積・分析したところ、平成26~29年度(22名)と平成30~令和4年度(24名)の比較において、スマートフォン訓練の希望が2件から15件に急増していた。 今や日常生活には欠かせないスマートフォンだが、視覚障害者向けの画面読み上げ機能については、その仕組みが一般的に知られておらず、視覚障害者が操作を学べる機会が限られている。また、周囲の人から不具合時の支援を気軽に受けられない等の課題もあるため、身近に音声操作の説明ができる支援者の育成を目的に「視覚障害者スマートフォンサポーター講習会」を実施したので、その結果を報告する。 【方法】 利用者及び支援機関等から聴き取りを行い、ニーズや地域の支援体制等について確認した。その後、社会福祉協議会に働きかけ、講習会の周知、参加者の取りまとめなど事務局としての役割を担ってもらい、当センター職員が講師となり実施した。 【結果】 回数:5回(令和3年11月~令和5年6月) 対象:地域のボランティア、学生、支援機関の職員等 時間:約2時間 内容:画面読み上げ機能を使用した基本操作、各種アプリ操作、設定、説明のポイント 仕組み:受講者は事務局である社会福社協議会に登録。視覚障害者から支援依頼があった際、事務局がサポーターとのマッチングを行い、支援される仕組みとし、視覚障害者・サポーター数の把握や調整を行った。 【まとめ】 社会福祉協議会を中心に講習会を計画したことで、各市町村を主体とする支援体制の構築につながった。今後の展開として、過去に参加した受講生に次回講習会のアシスタントを依頼し、最終的に講師となり、各地域の中で講習会が継続される仕組みづくりを想定している。「地域の中でつながる支援」の構築に向け、講習会を普及させていく。   P-A3 視覚障がい児者の触察の可能性に関する実践研究 ○松井 繁 金沢星陵大学 【目的】 視覚障がい児者は、実態を理解せず、定義的な言葉だけによる理解に陥りやすい。 Verbalismの克服のため、「触察」の可能性について実践研究する。 【方法】 一般に視覚障がい児者にとって、触れることが不可能と考えられているものの触察を実践してみる。下記の前8点は、手指で直接触れて観察する。(ポスター参照)  生きもの:ハリネズミ、蛇  高所に存在するもの:滝の白糸碑、信号機   稼働中の機械:扇風機の羽、点字印刷機、電動糸鋸、電動ドリル  手袋を要するもの:(棘類)薔薇、栗の毬(イガ)、サボテン「高崎丸」  杖による観察が適するもの:兼六園内「曲水の違い橋」、東大「三四郎池」 【結果】 先入観にとらわれないならば、多くの者の触察が可能であることが解った。棘類植物などは、薄いウレタン手袋、高温のものは厚布重ね手袋が適した。杖も情報収集に有用であった。 【考察】 晴眼児者がいろいろなモノを見て学習するように、視覚障がい児者にとって触れて見る実体験は、不可欠と言えよう。視覚器(情報量の83%)では受動的に多くの情報が入ってくるが、触覚(1.5%) (『産業教育機器システム便覧』)の場合、能動的意図的でなければ情報が得られない。石川盲に「手で触れてみる博物館」がある。烏の標本に触れた全盲児は「初めて烏を知った」と感想を述べたが(2004年2月17日北国新聞他)、全盲児者が直接触れて観察することなしにイメージできないことは自明である。先入観で制限躊躇するのではなく、その重要性を理解熟知し、積極的な取り組みが望まれる。 【結論】 今回の実践により、以下の結論が得られた。 (1)視覚障がい児者のVerbalismの克服には、触察が大変有用である(「百聞は一触にしかず」)。 (2)視覚障がい児者の触察に際しては、先入観や慣習にとらわれず、合理的にその可能性を追求する。 (3)直接手で触れられない場合は、手袋や杖の使用、模型製作等の方策を考える。   P-A4 視覚障害者の「触れたい」の掘り起こしと3D模型提供実践(1) ○元木 章博1)、南谷 和範2) 1)鶴見大学 2)大学入試センター 【目的】 初めて3D模型に触れた後の視覚障害者が、次にどんな「触れたい」を表出したのか?そして、その「触れたい」にどの程度応えられたのか?これらの問に対して実践したことで、今後の3D模型提供サービスの方向性を示す。 【方法】 3D模型のことを知った後の視覚障害者や支援者とのメールのやり取りや、イベント中の発言、後のインタビュー等から表出した彼らの「触れたい」(というリクエスト)を抽出する。そして、寄贈に至ったのかどうかと、その経緯について集計し、考察する。観測期間は、2021年10月から2023年3月、観測対象は、6組織(視覚障害者4人、支援者5人)である。 【結果】 23回のリクエストに対して、3D模型を20回提供し、3回提供できなかった。提供個数は、トータル111個である。1回のリクエストに対して提供した最多個数は26個、最少は1個である。提供した20回のうち、3Dデータをインターネットで検索し、得たのが延べ13回、作成したのが延べ7回である。そのうち、5回が国土地理院の立体模型作成サービスもしくは新潟大学工学部渡辺研究室の触地図自動作成システム(tmacs[mb])を利用したもの、延べ2回が、著者が3Dモデリングして作成したものである。 【考察】 3D模型に触れた後の対象者のリクエストは、【「個人的」(自宅等)もしくは「身近」なもの(ムツゴロウや福岡タワー等)】(18回:78.3%)と、有名なもの(ノイシュヴァンシュタイン城等)(5回:21.7%)であった。3D模型について「知って触れてもらうこと」の後、個人的もしくは身近なものに触れたいという希望が、表出することがある。 【謝辞】 本研究は、令和5年度鶴見大学特定研究助成および、JST-RISTEX課題番号:JPMJRX21I5による支援を受けている。 【備考】 なお、著者のポスター発表時間中、大会会場である「金沢商工会議所会館」や「鼓門」の3D模型、金沢駅から会場までの触地図を展示するので、触れて確かめて欲しい。   P-A5 無償での遠隔PCサポート実施から見えてきた視覚障害者への就労支援の課題 ○北神 あきら、中川 文、中村 昭一郎 特定非営利活動法人 視覚障害者パソコンアシストネットワーク(SPAN) 【目的】 SPANが2021年と2022年に実施した、公的な就労支援が受けられない視覚障害者に対する無償での遠隔PCサポート(以下本サポート)の内容を分析するとともに、その課題を提起することにより、より充実した視覚障害者への就労支援を行うための指針とすることを目的とする。 なお、本サポートは、この事業に賛同した方々からの寄付により運営している。 【方法】 本サポートを受講した26名の地域、状況、職業、公的な支援が受けられない理由、内容、また受講後に寄せられた感想などについて分析した。 【結果】 受講者の地域は北海道から九州まで全国にわたっていた。状況は求職者34.6%、在職者65.4%だった。職種は、事務職と公務員で在職者の70.6%を占めていた。公的な支援が受けられない理由は、地域的と制度面で92.7%のほか、職場の無理解などだった。内容は、WordやExcelなどのOffice製品が多かったが、実際の業務で使用するデータ作成に関する希望もあった。 受講者の感想では、本サポートへの感謝の言葉のほか、公的な就労支援の充実への切実な願いがほとんどの方から寄せられた。 【考察】 本サポート実施により、就労支援について以下のような課題が見えてきた。 ・地域格差が大きい ・在職者や公務員などが受講できる職業訓練がほとんどない ・遠隔で受講できる訓練が少ない ・支援機関の間での就労支援に関する情報共有が不十分 上記の課題を解決するためには、以下のような対策が必要だと考える。 ・地域を超えた就労支援の充実 ・在職者や公務員なども受講できる職業訓練の充実 ・遠隔での訓練を可能にするなど制度面の改革 ・支援機関の間での訓練教材を含めた情報の共有 【結論】 視覚障害者への就労支援の充実のためには、行政への働きかけはもちろん、支援機関の間の連携が重要だと考える。そのためには、就労支援機関の組織化も一つの方法ではないだろうか。 P-A6 時間的圧迫条件下での空隙回避が心理的不安特性に与える影響 ○宇野 直士1)、松尾 泰平2)、浅野 真誠3)、LOH Ping Yeap4) 1)山陽小野田市立山口東京理科大学 2)九州大学大学院芸術工学府 3)近畿大学産業理工学部 4)九州大学大学院芸術工学研究院 【目的】 ロービジョン者の転倒や定位喪失の一要因として、行動遂行に対する時間的圧迫がある。本研究では、求心性視野狭窄状態での空隙回避において時間的圧迫が生じた状況下での心理的不安特性の特徴を明らかにした。 【方法】 若年者10名を被験者とした。シミュレーションレンズゴーグル(M.TAKATAOPTICAL)を用いて、①晴眼条件、②求心性視野狭窄10°、③求心性視野狭窄5°、④求心性視野狭窄5°+オクルージョン0.04の視覚条件を模擬的に再現した。被験者は各視覚条件で、高さ30cmの土台から空隙10cmで設置した3種類の高さ(15cm、30cm、45cm)の土台へと移動する動作を3回おこなった。シグナル音が鳴った後3秒以内に動作を開始する試技を時間的圧迫条件とした。実験開始前には特性不安項目(STAIS-5:本当はそうたいしたことでもないのに心配しすぎる、幸せだと感じる、ひどく失望するとそれが頭から離れない、落ち着いた人間だ、うれしい気分になる)を質問し、各試技後には状態不安項目(STAIT-5:気が動転している、おびえている、神経過敏になっている、イライラしている、まごついている)をそれぞれ5項目、4段階で質問した。 【結果】 実験開始前の心理的特性不安値は13.6±1.8であった。空隙回避後の状態不安値は時間的圧迫の有無に関わらず、いずれの段差条件においても晴眼条件が最も低値を示し、求心性視野狭窄5°+オクルージョン0.04条件が高い不安値を示す結果となった。また、-15cmの段差へ降段する試技において、時間的圧迫が状態不安値に与える影響が顕著に認められた。 【考察】 求心性視野狭窄や時間的圧迫状況下での行動には、心理的負担が生じることが明らかになった。また、重度の求心性視野狭窄状態では、空隙回避に伴う心理的不安感が増大する傾向が示された。この結果は、ロービジョン者の保有視力・視野の制限が進行すると、空隙回避動作の困難さがより高まる可能性を示唆している。   P-A7 ナビレンスの紹介とユーザーグループの活動内容 ○久保田 真由美、品川 博之、園 順一 ナビレンスジャパンユーザーグループ 【目的】 ナビレンスジャパンユーザーグループ(以下、グループ)はスペイン発のナビレンス(NaviLens)を日本に普及させることを目的に、使い方や最新情報などを共有するため設立した。 【NaviLens概要】 NaviLensアプリは、約0.03秒の読み取り速度・160度の広角撮影、約16m先からの読み取り・GPS不要・36言語の自動翻訳に対応している。 壁や床に設置されたナビレンスコード(二次元コード)に登録された情報、道案内、看板情報、博物館の作品情報などをテキストや音声で伝えるアプリである。 開発元であるスペインはもちろんのこと、カナダ、アメリカ、メキシコ等、世界中に普及している。 日本では、東京、兵庫、九州等(公共機関、鉄道、博物館)に導入されている。 NaviLensには、公共スペース用の無料パブリックコードや、個人利用の無料パーソナルコードがあり、これらの活用によって視覚障害者の生活が、より豊かになると考えられる。 【グループ活動】 グループは、日本へのNaviLens導入を先導してきた関西のNPO法人や、視覚障害者が主体となり、以下の活動を行ってきた。 2022年夏 運営グループ立ち上げ 2022年11月 ウェブサイト公開 2022年11月 パーソナルコード印刷販売開始 2023年春 組織変革を行い、視覚障害者が、より参画しやすい体制づくりとした。 【まとめ】 視覚障害者が運営主体であるグループは、視覚障害者や支援者とNaviLensの使い方や最新情報等を日本のユーザー同士で共有するためのグループである。 具体的には、ウェブサイト、メーリングリスト等オンラインツールを活用して、情報の共有を行う。 詳細は、ナビレンスジャパンユーザーグループサイトを閲覧(https://www.users.navilens.jp/) 「ナビレンスコードの読み取り体験が可能である。ナビレンスアプリをインストールしてお越しください」   P-A8 米国調査を通してみた日本の読書バリアフリーに関する支援の展望 ○青木 千帆子1)、中野 泰志2)、野口 武悟3)、坂本 康久4)、濱田 佳世5)、別府 あかね6) 1)筑波技術大学 2)慶應義塾大学 3)専修大学 4)オーテピア高知声と点字の図書館 5)すぎもと眼科 6)岡本石井病院 【目的】 視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律が2019年に施行された。これをうけ、地方自治体が視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する計画を策定したり、関係者がネットワークを形成したりする等、様々な取組が進んでいる。だが、支援の現場において、この法律や計画をどのように活用することができるのか、その実践的な知識はまだ十分に浸透していない。また、読書バリアフリーに関しては、対象者の障害の程度や年齢、状況により求められる支援の水準が異なる現実がある。例えば、余暇として行う読書と、進学や昇進をかけて行う読書とでは、求められる精度や速度、分量が異なる。そこで本研究では、読書バリアフリーに関する支援の国際比較調査を行い、日本の読書バリアフリーに関する支援の展望を描きたいと考えた。 【方法】 上記の目的のため、本調査では教育場面での読書に注目し、米国の教育機関や図書館の取組について文献調査、及び、インタビュー調査を実施した。 【結果】 調査の結果、大別すると①個人が環境に適応することを個別に支援する取組と、②環境のバリアフリー化を推進する取組の、2つの方向の取組を組み合わせて、米国における読書バリアフリーに関する支援が構成されていることが明らかになった。①支援技術法、障害のある個人教育法に基づく個別の支援、②リハビリテーション法、障害のあるアメリカ人法に基づく機会均等の確保に関する取組である。この組み合わせの結果、出版社、NIMAC、州・地区教育委員会、支援技術プログラム、支援団体、IEPチーム/大学支援室、図書館等、多くの関係者が連携して読書バリアフリーに取り組んでいる。 【考察】 以上のような米国の状況を概観すると、日本の読書バリアフリーに関する支援には欠けている要素があることが分かる。本報告では、読書バリアフリーに関する支援の先進地である高知の取組を参照し、今後の展望について論じる。   P-A9 病院で機器展示を実施した効果 ○別府あかね、中矢 家寿宏 岡本石井病院 【目的】 ロービジョンケアの取り組みの1つとして、患者への充実した機器の紹介と地域の方々への啓発を兼ねて、院内での機器展示・相談会を実施した。 病院で機器展示を実施することで得た効果について報告する。 【方法】 2022年3月に「目の見えない・見えにくい方向けの機器展&相談会」を岡本石井病院通所リハビリテーションセンターにて開催した。日本盲導犬協会富士ハーネス、静岡視覚特別支援学校、パリミキ、システムギアビジョン、シードの5団体に協力いただき、「機器展示」「メガネのお手入れ」「就労・就学、歩行訓練など相談」「盲導犬体験」の4つの内容で実施した。 【結果】 41名の来場があり、内13名の当院の患者については、視機能を把握したうえで機器の紹介や相談を実施することができ、的確で効率よく会場内を案内することができた。また、チラシ配布時に関心の薄い患者も参加しており、その後の支援に繋がった。身障手帳取得や白杖の申請などが止まっていた患者においては、家族の理解が深まり手続きすることになった。 【考察】 過去に福祉側で機器展示に携わってきたが、医療側で実施することで、視機能や困りごとを把握していると、より的確で効率がよい機器の紹介が行えることを実感した。 関心の薄かった患者が参加した要因として、通院日を機器展示会と合わせることにより、スムーズに参加を促す効果があり、移動の困難など障害特性からも行き慣れている場所での開催は、参加しやすさに繋がったと考えられる。 会場で白杖を使用している他の視覚障害者の存在を知り、白杖の利用に結び付くなど個別の対応では得られない効果が生まれた。 視能訓練士や看護師など眼科スタッフも参加し、最新機器の見学や、支援者と交流することができ、また支援者には眼科の見学を行い今後の連携に向けてもお互いを知ることで良い効果が生まれることが期待される。   P-A10 視覚障害者が当たり前に働けるICT環境の実現を目指して-2年半の活動成果と課題- ○山田 尚文、伊藤 裕美、大橋 正彦、神田 信、熊懐 敬、高原 健、松坂 治男、吉泉 豊春 認定NPO法人タートル 【目的】 視覚障害者の就労におけるICT環境の様々な課題を解決し、視覚に障害があっても、当たり前に働けるICT環境の実現を目指す。 【経緯】 昨今のICT技術の進化は、働く視覚障害者の就労機会を大きく広げる可能性がある反面、業務のデジタル化に対応するため視覚障害当事者に負荷がかかるなど、新たな課題が出てきている。こうした課題を解決すべく、認定NPO法人タートルでは2020年11月にプロジェクトを立上げて活動している。 【活動内容】 2020年12月にプロジェクトで実施したアンケートでは、84.6%の視覚障害者が何らかのICT分野での困りごとを抱えていると回答した。業務のデジタル化に伴い新たに導入される業務システムやコミュニケーションツール、リモートワーク環境の導入など、こうした職場のデジタル環境の変化への対応には、視覚障害当事者の努力に加えて、ジョブコーチなど個別の職場環境に対応できる支援、そして職場の理解と合理的配慮が欠かせない。 こうした課題認識のもと、プロジェクトでは、情報交換のためのグループメールやICTサロンなどによる視覚障害当事者のスキルアップと情報交換を促進する取り組みに加えて、ジョブコーチ制度や職場の取り組みに焦点を当てたイベントを開催するなど、課題解決に向けた実態の把握と情報発信を積極的に行ってきた。 本発表では、デジタル化の進展に伴う視覚障害者の就労における課題を整理するとともに、プロジェクトの2年半の活動を総括する。 【まとめ】 約2年半の活動を通じて、支援制度や職場の理解、業務システムのアクセシビリティなど、様々な課題も見えてきている。今後は、就労におけるICT分野での情報ハブとして、視覚障害当事者はもとより、関係団体や企業、開発者などとも連携を深める事で、全ての視覚障害当事者のICTスキルの向上とよりよい就労環境の構築に寄与していきたいと考えている。   P-A11 視覚障害者向けの身体装着型安全歩行支援デバイスの検討 ○矢田 航世1)、福田 総治2)、内田 康之1) 1)日本大学大学院生産工学研究科数理情報工学専攻 2)マナブデザイン株式会社 【目的】 視覚障害者は、歩行時に白杖や点字ブロックで足もとや前方の安全を確認しているが、十分でないことがあり不幸な事故が発生している。白杖は視覚障害者にとって最も有用なセンサであるため、白杖と併用しながら安全歩行を支援できるデバイスを検討する。 【方法】 視覚障害者が白杖を使用している様子を観察し聴き取り調査を行った。白杖が接地した路面の位置と異なる位置に足を着地することが一般的であった。また、胸の高さ以上にある障害物などの発見が難しいことがわかった。本デバイスは正面と足もとの広範囲の障害物を検出でき、白杖の操作を妨げないように胸の中央あたりに装着する。また、歩行による揺動の影響を低減するために、センサ部の姿勢を常に水平に保持する機能を組み込む。この他、体型による装着位置の変化を緩和できるような構造にする。 【結果】 センサのレイアウト、胸の位置への装着を考えた構造部品を3DCADにより設計し、プロトタイプを製作した。使用する主なセンサは広範囲をカバーできるToFレーザ測距センサ(VL53L5CX)であり、正面方向を計測するために1つ、斜め下方の足もとを計測するために1つ、左右横方向を計測するために2つを配置した。この他、正面方向の障害物を検出するために超音波センサ(HC-SR04)を1つ配置した。これにより、前方の水平方向約135度、上下方向約90度の範囲の障害物等を検出する予定である。 【考察】 プロトタイプのため、デザイン性や使用性、軽量化は考慮せずに、構造部品の一部に市販品を流用した。このため、身体への着脱に際しては手順が複雑となり時間も要するため、今後の改良が必要である。 【結論】 障害物等を検出する計測範囲と使用するセンサ等を決定し、身体へ装着するためのレイアウトや構造などプロトタイプの設計を概ね完了した。今後は、装着した状態での計測実験および障害物等の検出アルゴリズム、情報提示方法について検討する予定である。   P-A12 ブロックを用いたプログラミングシステムの開発とその実践について ○菅原 研、松本 章代 東北学院大学 【目的】 現在、小学校教育課程でプログラミング教育が必修化されている。コンピュータプログラミングに焦点をあてた授業を実施する場合、Scratchに代表されるビジュアルプログラミングが導入されるケースが多い。ビジュアルプログラミングは直感的に理解しやすく、初心者にとって取り組みやすいものとなっているが、視覚に障害がある児童にとっては扱いが難しい。我々の研究は、プログラミング教育の幅を広げることを目指し、市販のブロックを用いてビジュアルプログラミングに準じたシステムを試作することを目的とする。 【方法】 試作システムは、プログラムブロック、プログラミングボード、ロボットなどの制御対象、で構成されている。 【プログラムブロック】児童はブロックを組み合わせることでプログラムを作成する。ブロック正面には命令が点字で書かれており、側面にはそのブロックの機能を記述したプログラムコードがQRコードとして貼りつけられている。 【プログラミングボード】ブロックプログラムを固定し、QRコードリーダでコードを読むためのボードである。視覚を持ちなくてもQRコードリーダがプログラムコードを正しい位置で的確に読み込めるような機構を組み込んでいる。 【制御対象】聴覚や触覚で動作が確かめられるように、太鼓・鈴ロボット、鉄琴ロボット、移動ロボットなどを作成した。 【結果】 宮城県立視覚支援学校と共同でプログラミングの特別授業を実施している。児童が独力でプログラムの作成、読み取り、実行し、プログラミング学習ができることが確認できた。 【考察】 対象児童数が少数であること、適切な評価方法が見いだせていないことから客観的な評価に至っていないが、担任教員ならびに児童からのアンケート結果に基づくと、提案したシステムによるプログラミング学習は有効であると考えられる。 【結論】 開発したシステムにより、視覚障害を有する児童がコンピュータプログラミングを学習できることが確認できた。   P-A13 スマホを用いたペア合わせ教材の活用 ○細川 陽一1)、星野 寛2) 1)名古屋工業大学 ものづくりDX研究所 2)コネクトドット 【はじめに】 音声による物品整理の方法の一つに、スマホにTag of Things ものタグアプリ(コネクトドット社)を導入して、物品にICタグを貼付する方法がある。今回同社がものタグアプリと16個(4×4)のコマをペア合わせ(いわゆる神経衰弱)する学習用教材を試作した。本教材を盲学校の授業で試用したので、この取り組みを報告する。 【方法】 A盲学校中学部の自立活動の時間(ICT機器活用班)、点字使用生徒3名(1~3年生各1名)を対象とした。ペア合わせは県と県庁所在地の学習、アニメキャラと必殺技合わせを用いた。教員が生徒に教材の使用方法、学習目的と内容を伝え、教員のスマホを順番に使用して、ペア合わせを行った。ペアになっていれば正解と判定され、自分の持ちコマとなる。これをコマがなくなるまで生徒が順番に行う。最後に各自でコマの数を数え、多いものが勝ちとした。 【結果】 アプリの使用方法は教員がデモを見せることで生徒は理解できた。スワイプやフルフル動作に慣れない生徒は、最初のうち、何度かやり直しをしたが、動作を繰り返すことで習熟する様子が見られた。コマを取る、戻す際はお互い声を掛け合い実施できた。終了後に県と県庁所在地のペアを確認したところ、どの生徒も発問に正しく回答できた。途中から、キャラと必殺技のペア合わせをしたところ、発言が増えた。 【考察】 ペア合わせにはゲーム性があり、内容を積極的に記憶する様子がみられ、学習内容の定着に寄与すると推測される。 またゲームの動作や勝敗に関するやり取りを通して、自立活動内容6区分の要素を満たすと考えられる。「コマを取ったり戻したり(身体の動き)」、「スマホの基本動作の習得(身体の動き)」、「どのコマを取り、それが何であるかを他者に伝える(コミュニケーション)」、「コマの取得状況と勝敗の計算(人間関係の形成)」。 今後はコンテンツの充実、生徒自身が教材作りできる環境の整備に期待したい。   P-A14 視覚障害者のタッチスクリーン端末訓練-七沢自立支援ホームの10年間の取り組み- ○矢部 健三、末田 友平、鈴木 絵理、平岩 みなみ 神奈川県総合リハビリテーションセンター七沢自立支援ホーム 【目的】 七沢自立支援ホーム(以下当施設)では全国に先駆け2013年から、スマートフォン等タッチスクリーン端末(以下TS端末)訓練を実施してきた。その状況を報告する。 【方法】 2013~2022年度の当施設利用者226名について、訓練記録等を参照。調査内容は、基本属性、使用端末、訓練内容、到達度等。 【訓練】 訓練は、1回40分、週2~4回、職員・利用者1対1で実施。 内容は、体験・入門・実用の3段階に分け、体験編では概要説明、ジェスチャー練習・TS端末の各種機能紹介を行っている。入門編では、電話発受・文字入力・メール送受・スケジュール管理・アプリ入手・チャット送受・路線検索等を実施している。実用編では、利用者の希望に応じてその他アプリの操作訓練を行っている。 【結果】 TS端末訓練を実施した者は112名(42.1%)。使用端末は、iPhoneが最も多く63.4%、iPadが31.3%で続き、iPod Touchは19.6%、Android端末は8.9%、らくらくスマホは2.7%である。 2023年3月末までに訓練を終了した102名のうち、訓練開始時点ですでにTS端末を所有していた者は45.1%、訓練を機に新規購入した者は36.3%、訓練を受講したものの購入までには至らなかった者が18.6%である。 【考察】 当施設での訓練によって多くの視覚障害者がTS端末を使用できるようになった。学習時の困難としては、(1)操作手順の理解・記憶、(2)適切なジェスチャーの習得が挙げられる。これらへの対処としては、反復練習、録音やノートの活用を勧めた。ジェスチャーの指導では、職員の手や指の動きを触れてもらい確認する、利用者の手や指を取ってジェスチャーを行うなどの工夫も行った。今後の課題としては、ニーズの個別性に配慮しつつ、職員1名が複数の利用者に指導するなど訓練の効率性を高めることが挙げられる。   P-A15 京都ロービジョンネットワーク 相談員研修会の取り組みについて ○大内 優香1)2)、古川 千鶴1)2)、鈴木 佳代子2)3) 1)京都ライトハウス 2)京都ロービジョンネットワーク 3)京都府視覚障害者協会 【目的】 京都ロービジョンネットワーク(以下ネットワーク)では、医療から構成団体の福祉相談機関への相談件数が2018年4月~2023年3月までの5年間で1,108件あり、年齢や相談内容も幅広い。相談を受け入れる側の体制づくりが重要となる中で、ネットワークでは2018年から、構成団体の福祉・教育等関係機関の体制・連携強化と相談員のレベル向上を目的とした相談員研修会(以下研修会)を継続して行ってきた。その活動を報告する。 【対象と方法】 ・対象:ネットワークの構成団体である福祉施設、当事者団体、盲導犬協会、教育機関の相談員・支援員等(以下相談員) ・方法:研修会は年2~4回、対面又はオンラインにて実施した。主催はネットワークの事務局が行い、参加者も企画立案を行った。また、参加者に対し研修会で学んだことや今後学びたいこと等を調査するアンケートも実施した。 【結果】 2018年4月~2023年3月までの5年間で計15回開催し、1回あたり7~9団体、平均22名の参加者があった。内容は、各施設の取り組み状況の報告や盲導犬歩行体験、ケース検討や相談対応のロールプレイ、グループ討議等を行った。研修会以前は、相談員同士の繋がりはあまりなく、相談対応で頻繁に連携することも少ない状況であったが、研修会で繋がりができ、顔の見える関係を作ることができた。そのことはアンケートの結果からも表れており、事例検討やグループ討議等で意見交換を重ねることで、各々の立場から多角的な意見を伺うことができ、お互いのことを深く知ることができた。それによって顔の見える関係ができ、以前より連携や情報共有、ケースの相談等がしやすくなったという意見が多くあった。 【結論】 研修会を通して、日々の相談対応で些細なことでも相談・情報共有できる関係性ができ、結果、相談者の方に安心して相談いただける体制づくり構築に繋がっている。   P-A16 視覚障害児の体育に関する論点整理と実践上の課題について ○眺野 花 関西大学大学院人間健康研究科 【目的】 視覚障害児は目で見て模倣することが難しいことから、運動指導には特別な工夫が要される。盲学校ができた100年以上前から、古河太四郎氏によって視覚障害児に対する体育プログラムは重要視され、昨今では「ブラインドスポーツ」が盛んである。一方、インクルーシブ教育の推進から、地域の学校に通う障害児が増加し、視覚特別支援学校の児童生徒は減少傾向にある。 インクルーシブ教育の推進は視覚障害児の体育にどのような影響を与えているのか、論点を整理し、今後の課題を考える。 【方法】 「視覚障害 体育」のキーワードをもとに先行研究をまとめ、研究の傾向についてを分析する。また、文部科学省が提示する学習指導要領やインクルーシブ教育に関する文書から、我が国が目指す視覚障害児の体育について考える。 【結果】 視覚特別支援学校は、児童生徒が大きく減少し、重複障害児の割合が増加していた。 また、一般校に通う視覚障害児に対する具体的な教材や指導方法は示されていなかった。先行研究には、子ども時代に一般校に通っていた視覚障害者に対して、当時受けた体育について調査した研究はあるが、現在の視覚障害児が通う一般校における体育の実態を明らかにする研究は見当たらなかった。 【考察】 視覚特別支援学校では、人数が必要なチームスポーツやルールを理解する必要がある競技の実践は困難になりつつあると考えられた。視覚障害児が通う一般校については、情報が開示がされていないため、授業の事例を共有することで、今後の視覚障害児教育に貢献できるのではないかと考察した。 また、体育の必修種目である「ダンス」には人数やルールに決まりがないため、視覚特別支援学校及び視覚障害児が通う一般校で、実践可能であることが示唆された。 【結論】 視覚特別支援学校も一般校も、時代の変化に沿って新たな課題が発生していた。現場の実態を正しく把握・共有し、教材を更新していく必要があると考えられた。   P-B1 高齢視覚障害者の余暇活動についての専門職の認識 ○矢田部 あつ子、齋藤 崇志、松井 孝子、清水 朋美 国立障害者リハビリテーションセンター 【目的】 高齢視覚障害者の余暇活動に関する専門職(リハビリ職・看護師・介護職)の知識の認識を把握する。 【方法】 介護保険関連事業所に勤務するリハビリ職(理学療法士 作業療法士)、看護師、介護職(介護福祉士 介護支援専門員)を対象としたオンラインアンケート調査(調査期間2022.11.24~11.29)において、「高齢視覚障害者が楽しめる余暇活動に関する知識の有無の認識」について調査した。カイ二乗検定を行い、知識の有無の認識と、性別・職種・業務経験年数との関連を検証した。 【結果】 1011名から有効回答を得た。全対象者の75.8%が「知識がある」と回答した。「知識がある」との回答は、性別(男性(78.6%) 女性(69.2%) p=0.001)、職種(介護職(82.1%) 看護師(73.6%)リハ職(70.6%) p=0.001)と有意な関連を認めた。業務経験年数(4年未満(72.6%) 4年以上(77.3%) p=0.06)については有意な関連は認めなかったが、「知識がある」との回答と4年以上の業務経験の間に関連傾向が認められた。 【考察】 「知識がある」との回答の割合は高く、「男性」「介護職」「4年以上の業務経験」 の属性との関連を認めた。この結果の背景として、(1)雇用形態の性差による影響(2)男性、介護職、業務経験が長い者は余暇活動に関わる機会が多い、などが推測できる。一方で、今回の調査は知識の有無という主観的評価であり、余暇活動の内容を明確に定義していないなど、支援実態との乖離は否めない。 【結論】 専門職の約7割が、高齢視覚障害者の余暇活動に関する知識を有していると認識しており、性別・職種・業務経験年数と関連していた。この結果を基に、余暇活動の内容を明確に定義した上で、更なる多角的な調査が必要である。   P-B2 書籍『見えない地球の暮らし方』による情報提供の試み Vol.2 ○石川 佳子、小寺 洋一 京都府視覚障害者協会 【目的】 見えない・見えにくい状況でITが活用できない方、または軽度のロービジョン(以下LVとする)者は制度やサービスの外側に置かれていることから相談機関につながりにくく、日常生活の不自由さを抱えているケースがある。情報入手困難な見えない・見えにくい人に対し書籍によるQOL向上のヒントの提供を試みた。 【方法】 第1巻2021年に製作(30回大会にて活動報告)。第2巻2023年5月、視覚障害者の日常レポートとシーン別私の工夫、見え方見えにくさ体験ページを収録した書籍を製作し、情報を直接当事者、関係者に無料配布する。製作方法:製作費募金活動。視覚障害者がレポートするメルマガ色鉛筆(本会発行)にて「私の工夫アンケート」を実施し、暮らしの工夫事例を収集。本メルマガより視覚リハビリテーションのヒントとなるレポートを収録。 【結果】 寄付金総額約420万円、2021年第1巻3000部製作配布済。2023年5月第2巻4000部製作(471件3735部配布)。テキストデータを本会ホームページにて公開、テキストデータCD版・電子書籍版無料配布。デイジー、点字データはサピエ図書館から利用可能(第2巻は製作中)。本書は眼科医会、スマートサイト、視能訓練士メーリングリストなどで紹介された。第1巻で配布協力いただいた機関に加え、LVケア実施医療機関・福祉相談・教育相談からの活用希望が増えた。第2巻の配布先は、医療141件1279部・教育26件230部・福祉122件1946部・当事者182件280部(2023年6月時点)。 【考察】 第1巻に引き続き、読書に困難を抱える当事者からの寄付、希望が多数あった。医療から直接書籍を配布することで早期のLV者やITが活用できない方に情報を届けることができた。眼科関係者にケアの中で活用された。このことから書籍による情報提供は有益だと考える。   P-B3 視覚障害のある生徒へのプログラミング講座 ○吉泉 豊晴 社会福祉法人日本視覚障害者団体連合 【目的】 デジタル化社会を見据えて、学校教育においてプログラミング教育が必修化されている。 そこで、日本視覚障害者団体連合(日視連)ではそのプログラミング教育を側面から支援するため、視覚障害のある生徒を対象にプログラミングの概念を学ぶ課外講座を実施した。 【方法】 東京の会場にいる受講生と東北学院大学(宮城県仙台市)とをオンラインで結んで、1回当たり2時間のプログラミング講座を実施。 視覚障害者が扱えるように点字と拡大文字を貼ったブロックを用いてプログラミングをおこない、micro:bit(プログラミング教育用マイコン)を制御する仕組みを活用。 内容としては次の3種類を実施。 (1)音やメロディーをならす。モーターに撥(ばち)をつないで机をたたく。 (2)モーターカーを動かす。無線による制御も行う。 (3)各種センサー(温度、光、磁気)の働きを確認する。変数を用いた制御を行う。 【結果】 今回の講座には、特別支援学校(視覚障害)に通う中学生2人と高校生2人とその保護者が参加。 プログラミングの結果を音や触覚により確認でき、いずれの受講生も講座の内容に関心を持って、取り組んでいた。 【考察】 (1)市販の教材を活用しつつ、視覚障害者が扱えるよう工夫するとともに、プログラムの サンプルを記した点字資料を用意するなどにより、プログラミングのエッセンスを理解できることが分かった。 (2)事前に関係者間で講座の留意点等を文書により共有した上で、会場で受講生のサポートを行うことにより、オンラインによる講座が可能であることが確認できた。 【結論】 プログラミング教育の教材や実施方法を創意・工夫することにより、視覚障害のある児童・生徒がプログラミングの概念について学ぶ機会を広げるてがかりとなる。   P-B4 鹿児島心の健康講座 実践報告Vol. 9 ○良久 万里子1)、田中 桂子2)3)、守田 好江4)、伊藤 和之5)、尾形 永樹6) 1)鹿児島県視聴覚障害者情報センター 2)神戸市立神戸アイセンター病院 3)橋村メンタルクリニック 4)いぢち眼科 5)筑波技術大学 6)新整体ネクスト 【はじめに】 「鹿児島心の健康講座」は、視覚リハ担当者と心理カウンセラーが協働し、視覚障害者およびその家族、支援者を対象に、メンタルヘルス維持を目的とし、平成24年度から実施している。 ここではVol.8以降の実施分を報告する。 【内容】 1. 視覚障害者及び家族の総合的支援 医療機関に繋いだり、講座への参加を促したりしつつ、継続して支援している。 2. 視覚障害者対象の講座の実施 「国リハ体験談」講演会 盲学校の普通科卒業後、他分野の専門職の協力を得て、国リハにてあん摩マッサージ指圧師の資格を取得した視覚障害当事者の話を聞き、チャレンジすることの大切さを知ってもらう機会を設けた。 「心の健康 個別相談会」 「視覚障害者、家族の交流会」 3. 支援者対象の講座の実施  「支援者の心のケア」 セルフケアができるようになることを目指し、心のケアについての講義を取り入れた。 4. 職員対象の講座の実施  「メンタルクリニック、心のケアについて」 気軽に医療機関を受診し、早期回復できるようになることを目指した。 5. 他分野の専門職との連携・協働による、視覚障害者対象の講座の実施 「盲導犬体験会」「交通安全教室」 移動に関するストレスを軽減するための教室を実施した。 「チャレンジド・ヨガ教室」 日常生活の中に潤いを見いだし、自身でも心身のケアができるようになることを目指した。 【今後の展望】 積極的に他分野の専門職と連携・協働し、視覚障害者および関係者が、その能力を最大限に発揮し、自身の生活を心穏やかに豊かに過ごせるような企画を立案していきたい。 P-B5 キーボード配列変換ソフトを用いたパソコンでの文字入力訓練の一例 ○安山 周平、原田 敦史、山本 友里瑛 堺市立健康福祉プラザ 視覚・聴覚障害者センター 【目的】 上肢障害でタイピングが難しい全盲の視覚障害者に対してパソコン訓練を実施した。キーボード配列の変更が可能なフリーウェアを用いることで、左右1本ずつ、2本の指で文字入力が可能となった。上肢障害に限らず、文字入力が難しいと感じる方への解決手段となりえるため報告する。 【方法】 フリーウェアのDvorakJを用いて、複数の入力方式やキー配列パターンを試した。このソフトは、レジストリなどの設定情報を書き換える必要がなく、起動と終了のみで事前設定したキー配列への変更・解除が可能なため、家族などがサポートを行う場合にも簡単に通常のキー配列に戻すことが出来る。また、片手入力や両手入力にも対応しており、直接入力用と日本語入力用にそれぞれ違ったキー配列を設定することも可能である。 【結果】 複数の入力方式やキー配列パターンを試し、本ケースでは右手薬指で「行」選択を、左手中指で「段」選択や濁点等の追加を行う両手型のキー配列で練習を開始した。受傷以前にパソコンの経験やローマ字入力の知識があったことから、行と段の組み合わせによる入力方式への馴染みも早く、キー配列を決定してから約3カ月(全6回)の訓練と期間中の自主練習により、ほぼ問題なく文字入力が可能となった。その後、ケースが関心を持つ分野でアルファベット入力が必要となり、直接入力用にガラケー入力に近いアルファベット用のキー配列を追加した。インターネット検索等でどちらの入力方式も利用が可能となっている。 【まとめ】 技術の進化により音声のみでパソコンなどの各種デバイスを操作出来ることも増えてきたが、従来通りのキーボード操作が必要な場面はまだまだ多い。本ケースは上肢障害の方であったが、パソコンに初めて触れたり、通常のキー配列を覚えることが難しい視覚障害者であっても、指でたどり易く、覚え易いように自由にキー配列を変更できるキーボード配列変換ソフトは有用だと考える。   P-B6 ナビゲーションタグの普及展開に向けた検討と課題の整理 ○原田 敦史1)、柳原 崇男2)、北山 ともこ3) 1)堺市立健康福祉プラザ視覚・聴覚障害者センター 2)近畿大学 3)アイコラボレーション神戸 【目的】 様々な視覚障害者向け歩行支援システムが開発されてきているが、地域や期間限定での設置が多く、全国的には普及していない。本研究は、施工・維持管理が容易であるNaviLens(2次元コード)を利用した視覚障害者向けナビゲーションタグ(以下ナビタグ)の実証実験とガイドライン(駅構内編)の検討を行うことを目的として実施した。 【実験の概要】 神戸市の取り組みにより、神戸市地下鉄および神戸新交通(株)ポートライナーの数駅にNaviLensが試験設置されている。本実験では、ポートライナー駅構内の壁にNaviLensを追加で貼り、ナビタグ利用の有無での駅構内施設の探しやすさ、構内の位置関係把握、移動のしやすさについて比較を行った。加えて、同様のシステムであるコード化点字ブロックおよびShikAIの開発者と設置位置・ルールについてガイドラインの検討を行った。 【実験結果】 ①指定した施設の発見では、ナビタグを利用したものは全員が指定した施設を確認することができた。 ②施設の位置関係把握については、利用しないものと大きな差はなかった。 ③駅構内での移動に関する検証については、複数のルートを実施したが、ナビタグの利用の有無で移動時間に大きな差はなかった。ただトイレへの移動には差が出ており、ナビタグがあることで発見、移動が早くなる施設があった。 【まとめ】 構内移動や位置関係把握ではナビタグ利用の有無で大きな差はなかった。駅がシンプルな作りで指定したルートが点字ブロック等で移動ができたためと思われる。ただ自動販売機、トイレの発見等メインのルートから外れたものは、ナビタグを利用しないものは発見できないケースもあり、有用性があると思われた。 また、公共交通機関の旅客施設・車両等・役務の提供に関する移動等円滑化整備ガイドラインを参考にガイドラインの原案を作成した。今後は駅以外での実験も行い、さらにガイドラインの整理を行っていく予定である。   P-B7 成人期の訓練受講者に限定した「社会参加訓練(つどい)」の取り組みとアンケート結果報告 ○武田 貴子1)、佐藤 寛子1)、瀬川 洋子1)、中村 忠能1)2) 1)北九州市立介護実習・普及センター 2)化成フロンティアサービス(株) 【目的】 「北九州市中途視覚障害者緊急生活訓練」の受講者の多くは、高齢者である。そのため、当事業で実施している交流を目的とした「社会参加訓練(つどい)」(以下、つどい)では、若年層にとっては世代間のギャップが大きい。そこで、20歳~40歳までに限定したつどいを開催し、受講者のアンケート結果を報告し考察する。 【方法】 昨年度から試行的に実施している通称「若者のつどい」の訓練受講者に、個別訓練のみの受講と「若者のつどい」にも参加してからの変化を電話調査した。 【結果】 全盲やロービジョンといった見え方の違いや、先天や中途といった様々なプロフィールの違いはあるが、「自分でも意識していない困り事を誰かが出してくれ、それに対して皆で解決策を出し合う事が出来た」、「同世代に知り合いができ、何か困った事があればやり取りできる人が出来てよかった」等の回答があり、個別訓練では得られない効果があった。 【考察】 平成12年度からつどいを開催し、当事者のニーズや専門職からの必要性、コロナ禍などの環境の変化などに応じて柔軟に開催回数・場所・形態などを変更してきた。今回は、グループの構成年代を変えて試行した。今後は、40歳~65歳の壮年期のグループも検討し、世代別のニーズに応えていきたい。   P-B8 RFID技術によるスマート白杖を用いた視覚障害者用駅ホーム端検出システムの評価 ○吉岡 学 金沢大学 【目的】 本研究の目的は、新たに考案したRFID技術を使った視覚障害者の駅ホーム転落防止システム(以下 VA システム)が視覚障害者の駅ホーム転落防止を可能とするかを評価することである. 【方法】 本研究では,駅ホームを模した実験ルートを設置し,この実験ルートを視覚障害者が実際にVAシステムを用いて単独歩行をする.その際にスマート白杖が実験ルート上のRFIDタグに反応し,視覚障害者が認識できた際の使用条件を測定する.測定項目は,実験ルートの到達率,スマート白杖の読み取り性能評価(横方向の距離、高さ,白杖振り速度)とした.また,対象者は,日常的に鉄道を利用している視覚障害者11名とした. 【結果】 実験ルート到達率は環境音有では92.9%,環境音無では78.6%であった.また,RFIDタグから横方向に150 mm、RFIDタグから100 mmの高さ、白杖先端部の振り速度が1.5 m/sまでであれば,白杖先端部のRFIDリーダの動作し,視覚障害者が認識可能であった. 【考察】 VAシステムの可能性について実験ルート到達率,スマート白杖用の読み取り性能から考察を行うこととした.実験ルート到達率は,環境音に影響を受ける結果となった.この点は,VAシステムが動作しない空白の箇所を環境音によって環境認知を行っているためと思われる.今後は,RFIDタグの設置数を考慮する必要がある.ホーム端部や経路変更部ではRFIDタグから横方向の距離,高さ,白杖先端部の振り速度の動作条件が明らかになった. 実験参加者の実験ルートにおける偏軌距離は平均70mmであった.また,白杖先端部の振り速度は平均0.8 m/sであった.この条件からすると,視覚障害者はVAシステムを使って単独歩行を行った場合,支障なく動作する可能性が高いものと思われる. 【結論】 VAシステムが視覚障害者の駅ホーム転落防止システムとして可能性があることを示した.   P-B9 視覚障害者がスマホを視覚補助具として活用するための課題と解決策の提案 ○堀 寛爾、清水 朋美、世古 裕子 国立障害者リハビリテーションセンター 【目的】 「視覚障害者の『スマホがあればなんとかなる』ような困り事をなんとかする」ことを最終到達目標とし、課題を整理し解決策を検討することを目的とした。 【方法】 視覚障害者へのスマホ指導における課題について、国立障害者リハビリテーションセンター職員への聞き取り、埼玉県内の市町村社会福祉協議会への質問紙の郵送、全国の視覚特別支援学校および視覚障害者情報提供施設へのオンライン回答形式の調査を、順を追って施行した。また回答者の内で協力の同意を得られた者には、最終成果物の校正意見を求めた。 【結果】 埼玉県内の市町村社会福祉協議会で視覚障害者へのスマホ指導の経験のある職員は、63市町村中5市6名のみであった。回答のフリーコメントより、すでにスマホを使っている者にとって新たなアプリ導入への抵抗は軽微であり、最大の障壁はスマホ購入の場面であることがわかった。これは受障時期が先天的か中途かを問わず、またスマホ購入当時晴眼であった場合も含まれる。オンライン調査では168施設中60施設から回答があった。困り事の多くは標準機能であるアクセシビリティあるいはユーザー補助の設定や、多くはない種類のアプリで解決されていることがわかった。これらの調査結果から、情報量の多いマニュアル本を作成するよりも、リーフレットという形で広く頒布することが目的に適うと判断しリーフレット「見え方で困る人に便利なスマホ設定・アプリ」を作成し、全国の視覚特別支援学校および視覚性障害者情報提供施設、また日本眼科医会の会員に送付した。 【考察】 視覚障害とスマホの両方に詳しい人は稀であるが、視覚障害者にとって便利な機能やアプリの名称のリストだけでもあれば、そこから検索等で詳細を知ることもできる。時勢柄、オンラインによる遠隔交流が一般的になり、業務外での活用も抵抗感が少なくなったことも、この分野においては追い風となったと考えられる。   P-B10 第五回ロービジョン・ブラインド川柳コンクール開催報告 ○神田 信1)、今西 義靖1)、青山 ゆう子2)、中村 成美2)、北村 紀子1)、佐藤 仁彦1) 1)株式会社 パリミキ 2)株式会社 パリミキホールディングス 【開催目的】 視覚障害当事者だけでなく、それぞれの立場から、川柳を通して視覚障害を表現し、互いの理解と愉(たのしみ)を提供。また、広く一般に視覚障害についての理解を促し、啓発する。 【開催概要】 募集期間:2022年12月1日~2023年1月31日 募集部門:(1)見えにくさを感じている方部門:ロービジョン・ブラインド・色覚障害・盲ろう等の当事者      (2)メディカル・トレーナー部門:医療関係者、訓練施設職員等      (3)サポーター部門:家族、友人、職場関係者、ヘルパー、一般等 募集方法:特設サイトの専用フォームより応募する形式 後援はNEXT VISIONに日本眼科医会が加わったほか、40の協力団体、多くの団体個人も告知にご協力いただいた。 【結果・まとめ】 応募総数3,356句(過去最高)。 視覚障害者からは今まで同様に心の葛藤、一度諦めた事が出来るようになった喜びや希望に加え、セルフレジや歩きスマホ等の新たな問題点、鉄道や信号、アクセシビリティ等の問題点、そして周囲の人の優しさに感謝する作品が多く寄せられた。 サポーター部門やメディカル・トレーナー部門からは、視覚障害者を思いやる作品、声をかける勇気や大切さ、視覚障害者が感じる問題点について各視点からの作品が多く寄せられた。 最優秀賞「障害物歩きスマホもその一つ」。点字ブロックは何のためにあるのか、そして、街中での悪気のない歩きスマホに視覚障害者が日々危険を感じていることを訴えた作品が選ばれた。 また、様々な川柳コンクールに応募している方が当コンクールを知り、視覚障害について勉強しサポーター部門に応募いただいた。このようなケースを増やしていくためにも、応募作品をさらに世に広げ、当コンクールの価値を高めていきたい。   P-B11 コロナ禍における情報保障~堺市立健康福祉プラザ視覚・聴覚障害者センターの取り組み~ ○山本 友里瑛、原田 敦史、安山 周平、高橋 三智世、渡邊 登貴子、平山 明子 堺市立健康福祉プラザ 視覚・聴覚障害者センター 【目的】 新型コロナウイルス感染症(以下コロナ)の流行に伴い、給付金やワクチン接種等、様々な情報が発信された。堺市立健康福祉プラザ視覚・聴覚障害者センター(以下当センター)では視覚障害者の情報保障のため、点訳やテキスト化(テキストデイジー作成、合成音声版作成を含む)を行った。当センターが行ったコロナ禍の情報保障の取り組みについて報告する。 【実施状況】 堺市の依頼で実施 〇ワクチン接種案内(2021年2月~、接種回ごとに随時対応) 接種券だけでなく、送付文(同封物の内容や当センター連絡先等を記載)・案内文・シール台紙・予診票・ワクチンに関する説明書、接種会場一覧をすべてテキスト化、点訳化。 接種回ごと、また記載物に変更があるごとに、点字版データ、合成音声版データ・CDを堺市に納品。 〇ワクチン接種券以外 コロナに関する公的支援制度(特別定額給付金等)の案内をテキスト化、点訳化(テキスト化3件、点訳化1件)、集団接種会場で配布する「新型コロナワクチンを受けた後の注意点」の点訳化(1件)、コロナ関係のチラシ(自宅療養時の注意点等)をテキスト化(8件) 当センターの判断で実施 〇厚生労働省、国立がんセンター、国税庁等のホームページから、コロナ関連の記事を選びテキストデイジー化を行い、当センターのホームページやサピエで公開。(2020年4月~随時、71件) 〇コロナに関連する情報や自宅でできる余暇の情報等を集め、当センターのホームページにリンク集を作成。(2020年4月~随時) 【まとめ】 コロナに関する情報は速度を優先したため、テキスト化が中心となった。テキスト化であれば、作成は1~3日、市との調整も含めて1~2週間程度で作成することができた。 ただ、機器の利用環境や操作の都合で、テキスト化しただけでは容易にアクセスできない利用者もいるため、合成音声を使用した音声CDも作成した。   P-B12 佐賀県立視覚障害者情報・交流センター開館から1年間の活動報告 ○南 奈々1)、田中 真理2)、上滝 静香2)、梅﨑 智香1)、世戸 亜希1)、山田 英美1) 1)たかだ電動機(株)視覚障害者支援部てんとうむし 2)佐賀県立視覚障害者情報・交流センター 【目的】 佐賀県立視覚障害者情報・交流センター(通称あい さが)は、2022年4月1日に旧佐賀県立点字図書館からリニューアル建替オープンした。これまで主業務として行ってきた点字図書や録音図書などの製作・貸出等の情報提供業務に加え、見えない・見えにくいことでお困りの方への相談窓口の新規事業を開設した。県内の視覚障害者が交流し集える場所にするために、センターの設備の充実や相談体制の整備、利用拡大のための啓発活動等を業務内容に掲げ活動を行った1年間の実践を報告し考察する。 【方法】 令和4年4月から令和5年3月でリニューアル後の新規事業である、「日常生活用具等の利用促進」「交流・啓発事業」「相談支援事業」「ICT等を活用したコミュニケーション支援」「利用拡大プロジェクト」「その他の事業」について、利用者や対応数、状況のデータを分析する。 【結果】 「相談支援事業」での年間総相談者数は1184件であった。「交流・啓発事業」では、期間中開催した主な行事に281名の参加があった。「利用拡大プロジェクト」で実施した県内関係機関への周知は203か所で、利用者の紹介や用具の相談等支援機関からの相談も多く上った。 【考察】 これまで、見えない、見えにくいことでお悩みの方やご家族、支援機関の皆さんが対象として相談できる機関は少なく、常設で用具の展示が見られたり相談員が常駐し対応したりできる当センターは、開館当初から多種多様な相談があった。年間の相談総数を見ると、これだけの相談が1年間に持ち込まれたことで、潜在的な悩みが多く存在していたことがわかる。 相談について、医療機関を受診している際の不安、加齢に伴いできなくなることへの不安も多く聞かれ、その気持ちにもっと早い段階で寄り添える状況を作ることができるよう、次年度以降、医療機関や介護保険等の支援機関との連携を強めることができるよう検討していきたい。   P-B13 踏切における視覚障害者誘導用設備に関する実証実験 ○田中 雅之1)2)、古橋 友則1)3)、青木 隆一1)4)、堀内 恭子1)5)、中村 透1)、高戸 仁郎6) 1)日本歩行訓練士会 2)(社福)名古屋市総合リハビリテーション事業団 3)NPO法人六星 ウイズ蜆塚 4)筑波大学附属視覚特別支援学校 5)(社福)日本ライトハウス 養成部 6)岡山県立大学 【目的】 視覚障害者の踏切事故を受けて、令和4年6月に改訂された国土交通省の道路の移動等円滑化に関するガイドラインのなかで、踏切における視覚障害者誘導用設備についての内容が追加された。ただ、その敷設物や敷設方法の妥当性については十分な検証がなされていない。そこで、日本歩行訓練士会では、実際にガイドラインの例示と同様の設備(踏切手前の警告ブロックから連続して踏切道内にエスコートゾーン)が敷設されている阪急電鉄宝塚線 服部天神駅付近の踏切において、その敷設方法の課題等を検証するための実証実験を行った。 【方法】 日常的に単独外出している視覚障害者20名に、事前に視覚障害者誘導用設備の敷設状況を説明したうえで、踏切道を単独で歩行してもらった。踏切の入口および出口の発見、踏切道内の直進歩行ができるかを課題とし、事後にそららのわかりやすさ等について聞き取りを行った。歩行は往路と復路を2回ずつ実施した。歩行時の様子をビデオカメラで撮影し、行動を分析した。 【結果】 1往復目では、23.1%(9件)が踏切入口を発見できず、47.3%(18件)が踏切出口の発見ができなかった。2往復目では、10.2%(4件)が入口を発見できず、43.6%(17件)が出口の発見ができなかった。また踏切道内を移動中にエスコートゾーンから逸脱したケースが1往復目では8件、2往復目では3件あった。 実験後のアンケート結果で、「ややわかりにくかった」・「わかりにくかった」と回答した割合は、踏切入口が40.0%、踏切道のエスコートゾーンが35.0%、踏切出口が70.0%となっていた。 【考察】 今回の検証から、踏切入口に警告ブロックを敷設することについては一定の効果は見込めるが、出口の発見ができなかったケースが多いことから、エスコートゾーンと視覚障害者誘導用ブロックが連続して出てきた場合に、その判別は十分できないことや、踏切内あるいは外のいずれにいるかの判断が難しい可能性が示唆された。   P-B14 歩行訓練士及び歩行訓練の実態について ○堀内 恭子 日本ライトハウス視覚障害リハビリテーションセンター養成部 【目的】 視覚障害者の駅ホームからの転落事故や踏切事故による死亡事故が相次ぎ、様々な対策が検討されている。その対策の一つとして、歩行訓練を一人でも多くの当事者に受講してもらうことが有効ではないかと考えられる。また、スマートサイトの普及等により、医療から福祉に紹介される当事者の数も増加しているように思われる。 果たして様々な歩行訓練のニーズに十分に応じられるだけの体制が整っているのであろうか? 歩行訓練士が、どれくらい実際に歩行訓練に携わっているのか?常勤専任で歩行訓練を実施している者はどれくらいいるのか?歩行訓練を実施した当事者の数はどれくらいなのか、歩行訓練や歩行訓練士の実態について明らかにしたい。尚、歩行訓練士とは、日本ライトハウス、国立リハビリテーションセンター学院、海外、珪山学園等の指導者養成機関を修了した者とする。 【方法】 アンケート調査を実施した。 期間:2023年5月~6月  対象:歩行訓練を実施している機関 配布・回答方法:FAX及びメール  回収率:98.9% 【結果】 歩行訓練士が在籍、または外部の歩行訓練士に委託し、歩行訓練を実施していると回答した機関は、92機関(医療機関5病院を含む。盲学校内を除く)。歩行訓練を実施している歩行訓練士は、186名。その内、1機関に一人で歩行訓練を実施している機関は、36機関(39.1%)。歩行訓練のみを専任で担当している者は7名(3.3%)。歩行訓練以外に他の訓練や図書館業務、相談業務などを兼任している者は、92人(49.5%)となっていた。歩行訓練を受けた当事者の数は、2540名、駅ホーム上541名、踏切71名であった。 【考察・結論】 修了者996名(2022年4月)中186名しか歩行訓練に従事できず、1機関に一人しか歩行訓練を実施していない割合が39.1%でとなり、退職等により歩行訓練自体が提供できなくなる可能性が示唆された。継続して歩行訓練を提供できる体制づくりは、喫緊の課題であると考えられる。   P-B15 チャレンジド・ヨガオンラインクラスの活動報告 繋がる場の創出とコロナ後の価値変容 ○城谷 直人1)、高平 千世1)、澤崎 弘美1)2)、崎元 宏美1)3)、佐藤 友見1)4)、内山 奈緒美1) 1)一般社団法人 チャレンジド・ヨガ 2)いけがみ眼科整形外科 3)スマイルスペース 4)佐藤笑顔瑜伽道場 【はじめに】 2013年、当事者の声をきっかけに対面クラスから活動開始した。2020年コロナにより、全ての対面クラス・イベントが中止になった時当事者のニーズからオンラインクラスが生まれた。 当初、対面クラスの代替手段であったが、現在では全国10か所の定期クラスとして定着している。様々な地域オンラインクラス創出の経緯や活動をまとめ、地域定着に至る変容、意義について考察する。 【活動】 現在Zoomを活用した3つの形がある。 1.自宅参加の形。 2.ハイブリッドの形(自宅と地域会場)。 3.個別クラスの形。 いずれも声だけの誘導でヨガを行う独自の形が確立している。 2020年5月第1回開催。継続する中で、2020年11月オンラインならではのニーズからやまネットクラスが生まれた。「雪のため外出が困難、交通手段が少ない地域で開催してほしい」という当事者が立上げたメーリングリストからのニーズである。 その後、当事者のフレイル予防のニーズから新潟でもハイブリッドクラスがスタート。 またその繋がりから、グループ参加が困難である重複障害者の個別クラスが始まった。 現在でも、夜ヨガ、朝ヨガなど様々なニーズから新しいオンラインクラスが創出され変化し続けている。 【考察】 オンラインクラスの目的は意識改革と区別化である。 意識改革とは、自宅で人と比べずヨガができる良い所に焦点をあてる事。 区別化とは本来のヨガ、心の眼で観る・感じるヨガという事。 オンラインならではの新たな形、地域を越えた繋がりが生まれている。 それは、対面クラスの代替手段だけでなく、目的が理解され、事前サポートによる安心感、そしてコロナ後の身心の癒しの重要性・ウェルビーイングの価値変容も考えられる。 人として身体を動かしたい、誰かと繋がりたい、幸せでありたい、その自然な意欲のきっかけとなるヨガ。 視覚リハビリテーションに繋がる活動を目指し、今後も当事者のニーズと共に繋がり続けたい。 P-B16 京都ライトハウス あいあい教室における地域生活への支援 ○古川 千鶴 京都ライトハウス あいあい教室  京都ライトハウスあいあい教室は、1976年に開設。現在は、「児童発達支援(0歳~就学前)」と「放課後等デイサービス(小学生~高校生)」の大きな2つの事業を展開。また、遠方であったり家庭の事情などで通園できない子どもへの訪問支援を行なうことで、京都府内の視覚障がい乳幼児へは、家庭事情に関わらず支援ができるような体制作りをしている。  あいあい教室は、0歳~の視覚障がい児の早期療育・保護者(家族)支援・地域生活支援などを大切に活動している。今回は、地域生活支援についての活動報告を行う。 (1)並行通園先(保育園・幼稚園・通園施設など)への支援  あいあい教室の通園以外は、地域の保育園・幼稚園・通園施設などへ通うケースが大半である。しかし地域園では、視覚障がい児にどのように関わっていいのか心配される場合も多い。必要に応じて並行通園先への訪問・見学受け入れなどを行うことで、地域園での過ごしがスムーズに送れるように支援を行っている。 (2)視覚障がい児への理解を進めるための啓発  地域園からの要望がある場合は、並行通園先での職員向けの研修会(視覚障がい疑似体験など)を行っている。園の多くの職員への理解が深められる実践となっている。 【まとめ】  それぞれの地域の特性の中で、どのような配慮や周囲の理解があれば、地域の子どもたちや大人との関係性が高められ安心して生活できるのか? 視覚障がい児とその家族が孤立せずに過ごせるのか? 子どもたちにどのような力をつけていく必要があるのか? 乳幼児期からのインクルーシブの視点が重要だと考える。